平野レミゼラブル

ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビューの平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

3.3
【底抜けの自己肯定を他者にも向けてみれば……】
「ブックスマート(Booksmart)」というスラングは「賢いけど世間知らず」といったような意味合いらしく、意訳してしまえば「頭でっかち」みたいな感じですかね。実際本作の主人公であるモリーとエイミーは、輝かしき高校の青春時代を勉強一筋で過ごしてきたガリ勉頭でっかちコンビ。卒業の際にはバカ騒ぎしかしていない他の皆よりも差をつけていると内心ほくそ笑んでいたわけです。しかし、彼女たちの予測は外れ、他の皆もハーバードやらGoogleやら各々希望の大学や企業に入学&就職。周囲の皆もなんやかんや先のことを考えて、要領よく勉強をしていたワケですね。
この事実にモリーとエイミーは「これまで私たちが犠牲にしてきた青春は完全なる無駄…?」と愕然。しかし、「いや、まだ卒業式まで一夜ある!青春は今からでも取り戻せる!」と2秒で思考回路を切り替えて卒業前夜のパーティー会場に繰り出していきます。

中身自体は割と単純なバカ学生たちのバカ騒ぎというTHEアメリカンな青春モノでして、やることもドラッグ!ドリンク!ダンス!セックス!と下ネタとかお下劣な要素も連発するちのうしすう低めな内容なんですね。それでいながら、主人公の女の子2人が上手くそこに溶け込んでいくというか、例えばエイミーはレズなんですがそれに関しては「そういう人もいるよね」くらいに極々自然な価値観となっている優しい世界なのが新時代のお馬鹿青春モノって趣です。そのため特に引っ掛かることなく、気持ち良く鑑賞できる。

特に気持ち良いのはモリーとエイミーの類稀なる自己肯定感の高さ。冒頭から妙なノリのダンスバトルをしたりと、2人の間柄はガリ勉の真面目ちゃんと言うよりもぬるいギャグとノリで強固に繋ぎ合った悪友として描かれていますが、この時点でちょっと微笑ましい。
さらにどちらかが「私はこんな太ってるし、勉強以外に脳がないし…」とネガティブになれば、即座に引っ叩き「アンタは強くて美しくてクールで賢い!」と全肯定。お互い褒め殺しになるシーンは、人生かくあるべきというポジティブシンキングっぷりで元気がもらえます。

彼女たちのパーティー会場に向かうための珍道中は、そんな自己肯定力を身内からその他大勢へと広げる旅でもありました。勉強しかしておらず、他のクラスメートを見てもいなかった彼女達には当然のようにパーティーのお誘いなんてあるハズもなく、そのためあちこちのパーティー会場をハシゴして情報収集しながら目的地へと向かっていくのです。
その最中で出会うクラスメートや学校の先生たちからは、それぞれ表面上では見られなかった性格や苦労というのが見えてきます。親の七光りで調子に乗っているだけかと思った奴が実はそこから脱却して自分の夢を追い求めようとしていたり、男を誑かしてちやほやされているビッチかと思ったら誰よりも孤独を抱えていたり、校長先生と思ったらタクシーの運ちゃんやらないといけないくらいに困窮してたり……
唯一ジジのみは神出鬼没な上に出るたびにキャラクターが変わるという特異点で面白すぎましたが。まあなんだ、彼女は妖精さんみたいなモノだから……
とにかくモリーにしろ、エイミーにしろ「なんだ、皆それぞれ迷ったり、苦労したり、努力してるんじゃん!」と理解を深めていき、四角いアタマを丸くしていくことで相互理解していく流れが文字通りスマートだなァと思いましたね。そして、意固地すぎる人間もこうして他者を肯定していくことで一夜で変わることが出来る!と示してくれるのが本作の優しさの由縁でもあります。

ただまあ、個人的な好みでいくと世間的な高評価程では…というのが正直なところかな……。お馬鹿映画としてのノリと、真面目な作りが正面衝突を起こしてしまっていて、結構ヌルく感じてしまう部分がありました。なんというか、馬鹿をやるならもっと徹底的に馬鹿やってほしいんですよね。
とことんボンクラ映画ってワケではないので、急に入るボンクラ要素で「えっ!?」って笑うより先に困惑してしまう面が多々ある感じではありました(例:ピザ屋の店員と終盤の警察署のアレ)。

しかし、青春モノは大好物ではあるんだけど、やっぱりどういう青春が好きかっていうのは自分の中で言語化できないものがあるなァ…というのは実感。いや、本作は本当に面白くないわけじゃないし、むしろ作りはしっかりしているんだけど、心に刺さるかでいくと別にそこまででもないってくらいだったし……
少なくともモリーとエイミーの自分を鼓舞する精神は大事にしていきたいし、これからも色んな人やら映画との出会いを大事に様々な側面を見ていきたくはありますが。