マンボー

燃ゆる女の肖像のマンボーのレビュー・感想・評価

燃ゆる女の肖像(2019年製作の映画)
3.9
女性同士の同性愛の映画かと思ったら、性別を超えた結ばれない恋を描いた作品に見えた。

最終盤の奥ゆかしさ、そして余韻がすばらしい。振り返らず孤島のお屋敷を立ち去ろうとする主人公にかけられる声。そして、振り返って目に入る光景。

さらに劇場の端と端で、あのとき近距離でモデルの彼女を見つめたように、今度ははるか遠くから舞台を見遣ることもなく、その視線に気付くこともない彼女を見つめ続ける画家の視線と、思い出のメロディーに普段は表情が乏しいはずの彼女が肩を震わせ、目を赤くして、やがて頬をとめどなく流れ続ける涙。

伏線の回収などという味気のない言葉では語りたくない同性愛を経験している女性映画監督の深い想いが強くにじんだ見事な畳みかけ、そして余韻が素晴らしかった。

序盤から中盤はやや退屈にも感じた。荒い波間に小舟に揺られ、孤島に向かう序盤のシーンでは、ピアノレッスンを思い出した。海に飛び込むシーンまであったから、過去の作品を意識していないことはないだろう。あれから四半世紀が経ち、さらにさかのぼった時代を描きながら、性別を超えた想いが描かれていることにも、世界中の人々の意識の変容とそのうねりを感じた。

また貴族の生活を描いているとはいえ、18世紀末が舞台のはずなのに、時代背景を感じられる描写がファッションぐらいで、建物や室内の様子など、何もかもがかなり綺麗で整然としている。そんな女性監督の潔癖ぶりには、正直にいって違和感や空虚さを感じた。

そして、年若い侍女の望まぬ妊娠と中絶、奇妙な女性たちの集いや儀式、映画を観ながらその意図や奇妙さに当惑したが、振り返れば、全ては望まぬ婚姻や、女性の抑制された境遇など、主要な二人の登場人物を中心とした過去や現在、未来の姿への暗喩として重ねてみれば、かなり理解できる気がした。

ただ、本当に彼女が、いや彼女の衣服が燃えるとは思わなかったものの、その姿の何と奇妙で暗示的であることか。

それにしても、最終盤の見事さ。延々と続く退屈にも思えた、やや単調な前奏が、控えめながら見事に意味を持っていたことに気付かされるリフレイン。色のない前奏が、リフレインとともに色彩を持って記憶のなかでよみがえり、監督の深い思いとともに、その余韻が胸の奥に浸み込んでくる感覚は、そういつもあることではない。

同性愛の映画として観ているうちは何の興味も湧かなかったのに、性別を忘れて恋愛映画としても見られることに気付き、そうとしか見られなくなった最終盤、二人の互いへの静かに深く燃ゆる想いに、観ているこちらの胸も焦がされる思いになった。