B5版

燃ゆる女の肖像のB5版のネタバレレビュー・内容・結末

燃ゆる女の肖像(2019年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

究極に削られて作品の傍に置かれていたビバルディの音楽が、脳天を貫くように鳴り響く悩ましいほど美しいラスト。

夕立と稲妻。
暮れ行く野から嵐の過ぎ去った尚も燻ることなく燃え続ける炎。
熱く視線を交わしたかつての恋人の横顔、
あの日見つめ返した女の顔をいまでも忘れてない。
恋の情が鳴り止んだ後も一世の記憶として今も彼女の内を燻らせる、おそらく永遠に。

この時代の女が、閉ざされた空間の中で家長の所有物として扱われている人間が、一人の心通う存在に出会うことがどれだけ尊いものかは現代人には言い表せないだろう。
まるで前座であるかのように、やがて異性愛に回収されていく女の連帯と恋愛。
しかし女達の愛は波間に消える泡沫の物語ではない。種だけ与えて逃避できる性には分からない、確かに存在した愛の初めから終わりまでの話だった。
とにかく最後のシーンに集束された感情の昂りには唸りました。

映画を観て、近代以前の女流画家の名をどれだけ挙げられるだろう?とふと思う。
人間の歴史に添えられた美術史の歩みの中で、幾多の女達が描いた絵はどこに隠されたのだろう?
アルテミジア・ジェンティレスのような傑物に誰もがなれたかといえば難しく、主人公のように男の名で覆われて美術史に綴られずに、今も歴史の行間にひっそりと忍んでいる人が沢山いるのだろうな。
今まで何気なく見ていた美術品すら見方を変える、静かな革命のような作品。

物語にすべき事柄は歴史の中にまだまだたくさん残っているのかもしれない。
B5版

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