2017年のヒット作「幸せなひとりぼっち」に続くフレドリック・バックマン原作の映画化、というわけで邦題からして二匹目のドジョウを狙いたい配給会社の思惑をビンビンに感じるんですけども、あちらが妻に先立たれたガンコじじいならこちらは夫に裏切られた専業主婦、というわけでそもそも両作が対をなしているとは言えないんですね。ざっくり言えば、こちらの物語はまだ枯れてない。ゆえに分かりやすいおとぎ話には収まりきらない生々しい湿り気をたたえているのですけども、これをもし日本で撮ったらうらみます系ドロドロ情念からのスカッとJAPAN的テンプレに陥りかねないところをスパッとサクサク合理的かつ理知的にまとめ上げていらっしゃる。こういうのってお国柄なんですかね?何事にも動じず焦らず「一日ずつよ、一日ずつ」と己を律するブリット=マリー、メンタル強すぎ。長谷部誠をサムライブルーの主将たらしめた代名詞「心を整える」とは、その真髄とは、規則正しく安定したルーティンを日々怠らない主婦の生活にも通じるものだったのね…!と本題からやや離れたところで胸が熱くなることうけあいです。
主人公が笑顔を失うに至った経緯は子ども時代の心の傷を結婚生活に重ねることで丁寧に描かれるものの、前述のとおり何しろ心が鉄壁なもんで迷いや揺らぎがあまり表に出てこないんですよね。子を産み育てた経験を持たない彼女がやんちゃ盛りのチームと対峙するとなれば当然、ありとあらゆるトラブルや衝突は免れないはずなんだけど、それさえいつの間にかどうにかなったように見えてしまう。チームの一員である大人びた少女がひとり反発しつつも主人公に寄り添った言動を繰り返すおかげで、他の子が全員モブにしか見えない。ここらへん、もうちょっと具体的なエピソードを描いてくれたら終盤のカタルシスが増したろうになあと思いました。
このタイトルにあの伏線なら、最後はやっぱりそうこなくっちゃ!ってところに落ち着いたのはとても良かったし、その背景を描きすぎないところに品の良さや余白の豊かさを見せつけられた気がして、やっぱりこれもお国柄…?と再びあれこれ思いを巡らせながら劇場を後にした次第であります。繰り返しますがこれ、日本だったら絶対に懲らしめの過程をこれでもかってほど執拗に描きますよね。「倍返しだ!」とか何とか言って。