ラウぺ

家族を想うときのラウぺのレビュー・感想・評価

家族を想うとき(2019年製作の映画)
3.8
引退を撤回して製作された『私は、ダニエル・ブレイク』の監督ケン・ローチの最新作。

マイホームを手に入れるため、個人事業の宅配契約を結んだ男の悪戦苦闘を描くこの作品は、『私は、ダニエル・ブレイク』同様、社会的弱者である労働者階級のいわゆるゼロ時間契約の問題を浮き彫りにしていきます。
名目は会社と対等な出来高払いの運送契約ですが、完全なノルマ制であること、配送に関わる時間厳守や、休業の場合の穴埋めは契約者個人が代わりの人手を用意することなどの細かな規定に縛られ、結果的に過酷な労働を強いられるという、現代における搾取の新形態ともいうべき状態。
主人公のリッキーは映画の冒頭で契約について聞かされ、全ては君次第、ということで契約に応じるのですが、共働きの妻は介護の仕事に就きクルマを使っていたが、リッキーが配送のためのバンを買うことで仕方なくクルマを手放しバスで介護先に通うことに。
長男は仲間とともに街中にグラフィティを描いたり(さすがバンクシーのお国柄というべきか)、喧嘩で停学処分となったりで両親にとっては悩みの種となっている。

持ち前の負けん気と努力でなんとか配送の仕事をこなすリッキーだったが、過酷な労働条件に次第に家族の中に軋轢が生まれてくる展開はいかにもケン・ローチらしい徹底ぶり。
次々と起きるトラブルに賢明に対処する様子、それが良い方向に向かわずに更に悪化していく展開は観ていてかなり堪えるものがあります。
この痛みを伴う感覚は、やはり『私は、ダニエル・ブレイク』と同じく、観る者に監督の訴える強烈な怒りのメッセージなのだということだと思います。
現実に行われているこうした搾取の構造を知ること、その痛みを体験してみないと、おそらく他人事で済まされてしまう、という監督の危機意識の表れと捉えなければならないのでしょう。

これは当然、英国のみならず、日本においても最近のコンビニオーナーと親会社との契約問題や、Uber Eats (ウーバーイーツ)の休業補償問題、非正規雇用のさまざまな差別的な制度やワーキング・プアに纏わる問題等々・・・挙げたらキリのないほどに噴出している大きな社会問題でもあります。
より効率的で低コストなサービスの追及がこうした新しい搾取の構図を生んでいることは間違いないのですが、果たしてこの問題の解決の糸口というものを見出すことが出来るのか?この映画の投げ掛ける問題の解決法は映画の鑑賞後にそれぞれが持ち帰って考えなければならない大きな問題でもあります。

物語の終わりの絶妙な不安定さは、監督から私たちへの重要な宿題を渡された、そのメッセージであり、それを真摯に、真剣に受け止める必要があるのだと強く思うのでした。
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