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カセットテープ・ダイアリーズのkuuのレビュー・感想・評価

3.8
『カセットテープ・ダイアリーズ』
原題Blinded by the Light.
映倫区分G.
製作年2019年。上映時間117分。

1980年代のイギリスを舞台に、パキスタン移民の少年がブルース・スプリングスティーンの音楽に影響を受けながら成長していく姿を描いたイギリス産青春音楽ドラマ。

ジャーナリストであるサルフラズ・マンズール人生とブルース・スプリングスティーンの作品への愛にインスパイアされたものだそうです。
マンズールの回顧録『Greetings from Bury Park: Race, Religion and Rock N’ Roll』がベース。
出演はヴィヴェイク・カルラとクルヴィンダー・ギールなど。
監督はグルリンダ・チャーダ。

87年、イギリスの田舎町ルートン。
音楽好きなパキスタン系の高校生ジャベドは、閉鎖的な町の中で受ける人種差別や、保守的な親から価値観を押し付けられることに鬱屈とした思いを抱えていた。
しかしある日、ブルース・スプリングスティーンの音楽を知ったことをきっかけに、彼の人生は変わり始める。。。

芸術(エンタメも含め)表現することの重要性てのは、ある集団だけに語りかけるんやなく、
能力、
 人種、
  性別、
   宗教、
その他私たちを分けるために使われるあらゆる属性に関係なく、我々は皆、心の底では同じ問題や課題に取り組んでいることを示すことにあるんかなぁと思います。
勿論、真逆のピンポイント作品にも素晴らしいモノは沢山あるけど、日本の多くの芸術はピンポイント真逆が持て囃され、それをよしとして馴染みその後に続きまた作る。
邦人が世界に表現を発信したとき評価は低くくなるなるのも仕方ないかな。
今作品は、少年が英国系パキスタン人イスラム教徒としてのアイデンティティを発見することだけを描いているのではなく、それを超えて、親と子の間の青春の葛藤を描いている点で好感を持て真摯さを感じるし、何より、この映画が一番やりたいことてのは、『笑顔になること』なんかな。
ノスタルジーと、主人公にとって意味のあるサウンドトラック(スプリングスティーンを主に)中心とした青春物語というストーリーは、近年本当に過剰に演じられてきたけど、だからといって、このようなシンプルな前提が、音楽好きの視聴者を本当に喜ばせないわけがない。
全編を通してエネルギーと物語への情熱に満ちた今作品は、ルートンの愛すべき冴えない描写と、ヴィヴェイク・カラ演じるジャヴェドという好漢の主人公で魅了されました。
ジャビットが夢を叶えることを追求し、少年から男へと変化していく過程のベースラインと、80年代半ばのイギリスが、より良い明日への祈りと夢によって支えられてる、荒涼とした絶望的空間であることを見事に表現してました。
いつかルートンから脱出するという若きジャヴェドの夢には、感情移入できない方もいるとは思いますが、今作品の小さな町、地に足の着いた雰囲気は、実際に最も楽しいところであると個人的に思いました。
スプリングスティーンの音楽が紹介される瞬間で、同じような年齢で、同じく"ボス"に大きな影響を受けた、邦楽なら甲斐バンドや、浜田省吾、そして初期の佐野元春と同じような反応を示してるんかな(彼らをタイムリーではしらないけど音楽を聴いたり伝記を読む限り)。
スクリーンから放たれるエネルギー。シネマの魔法が、この数分間ほど生き生きと感じられる一本かな。
SONYウォークマンから大型携帯電話まで。
また、1980年代のあらゆるノスタルジックなものへの楽しい熱意と、少し昔の家族についての細かい描写、たとえばエンジンがかからない車を車道から押し出さなければならないことなどが相まって、安っぽいかもしれないが、本当に簡単に楽しく接することができ、そのエンターテインメント性は素晴らしいものとなってると思います。
実際、同じようなジャンルの優れた作品に比べれたら、深みがないのは否めないけど、
今作品は、ストーリーをもう少し掘り下げると、本当に感動させるほどのモンになりえた可能性を秘めてるかな。
愛すべき青春ストーリーに加え、サッチャー政権下のイギリスでの生活や現代の人種差別など、よりシリアスな社会・政治的テーマを導入しようとしているが、歴史的な文脈では確かに重要で魅力的ではあるものの、このように心地よく高揚する映画の中ではかなり違和感も感じたのは確かかな。
成長し、世界について学ぶことをテーマとするこの作品の中で、このようなテーマは、やや強引な印象があり、少し残念に思う点かな。  
また、今作品のふわふわした性格にふさわしく、ストーリーの要素が、おそらくベストというよりもずっと単純化されてる。
映画『ぼくの国、パパの国』のような、イギリスにおける南アジア人の生活を描いた他の作品とは異なり、この作品におけるパキスタン人家族の描写は、時折見られる単純なテレビ番組のように、少し戯画的に過ぎるように感じられる部分があった。
特に父ちゃんの描き方が一面的で、彼の威圧的なルールが息子の人生に重くのしかかり、その結果、彼の人格の変化が得られず、行き当たりばったりにさえ感じられる。
しかし、全体としては、今作品を楽しむことができたのはかわりない。
ストーリーに深みはないが、心地よいノスタルジーといい音楽といい、最後まで前向きな姿勢で見ることができました。
kuu

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