犬たろ

リスペクトの犬たろのネタバレレビュー・内容・結末

リスペクト(2021年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

光が強いほど影は濃くなる

いつでも楽しそうに歌う
幼気なその姿に その歌声に
皆は現を抜かす

男たちから散々踏みにじられた
乙女心
涙を拭いて歌い続けた
やめられない、とまらない
どうしようもなく好きだから
そう語りかけるように

いつも束縛して裏切る
居丈高な男たち
愛玩動物のように
弄んでばかり

人は行き詰まると
父ではなく
母を思い浮かべる

憧れの人 愛しい人が
唯一の心の支え
いつも正しい道を教え示す

一度歩んだ道は永遠に消えない
断固として消させない
“敬意”を示しなさい
そう語りかけるように

他人(ひと)から見える
その華やかな姿は
まるで水面(みなも)に浮かぶ
鳥のように
人知れず足掻く

いつも束縛して裏切る
居丈高な男たち
愛玩動物のように
弄んでばかり

夜中の3時に何を思ったか
ピアノの鍵盤を弾きながら
酒が入ったグラス片手に
歌い始めた

もし僕がその部屋に居れば
さすがに我慢ならず
ヘッドホンとアイマスクをして
毛布を頭から被ることを
どうか許してほしい
なんてスクリーンを見つめながら
思った次第だ

でも、きっと
傍に寄りたくなるんだろうな
喩え夜中の3時だろうと
世界中でただひとり
その美しい歌声を
独り占めできるのなら
別に夜中の3時でもいいかと
隣に立ちたくなるんだろうな

でも、グラスだけは
そっと外しておこう
酒に溺れてほしくない
その歌声に溺れたい
その歌声に酔い痴れたい

誰よりも“敬意”を求めた
いつのまにか居丈高になった
独りになって気づいた
彼等と同じじゃないかと
自分に嫌気が差した

孤独に喘いで
涙を拭いて
酒を断ち切った
その勇気ある行動に
涙があふれた

いつも束縛して裏切る
居丈高な男たち
愛玩動物のように
弄んでばかり

何人たりとも
邪魔することなかれ
押さえつけようたって
そうはいかない
歌うことは
やめられない、とまらない

もうこれ以上
自分を責めなくていい
もうこれ以上
黙っていなくていい

口を一度開けば
もう断固として閉ざさない
もう誰も恐れない

“敬意”を示しなさい
そう語りかけるように
この歌声が拳となって
その醜い心を打ち砕く

歌い続ける
わたしのために
声を上げ続ける
あなたのために

p.s.

光が強いほど影は濃くなる
その影の部分にスポットを当て続けた今作

物語の余白に込められた“性被害”の数々

華やかなポスタービジュアルに反して
常に厳かで張り詰めた緊張感があった

今作を見届けながら
思いを馳せることの重要性を再認識した
感慨深いものをひしひしと感じた

そのおかげで自分自身が
どういう人間になりたいかも明確になった
犬たろ

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