horahuki

スターフィッシュのhorahukiのレビュー・感想・評価

スターフィッシュ(2018年製作の映画)
4.5
生きろ!!

これは年間ベスト級の大傑作👍👍
親友を亡くしたその日に世界が崩壊。外には超怖いモンスター😱そいつを倒し世界を救う鍵は親友が残してくれた7つのカセットテープ!親友との思い出の場所に隠されたテープを探しに主人公はモンスターが彷徨く外の世界へと踏み出す!久々にすんごい感動🥺

時期を逸した感はあるけど今更ながら見ました!これはほんと見て良かった!!大傑作って言っちゃったけど、語り口の辿々しさはどうしても拭えないし、嫌いとかつまんないって言う人もかなりの数いると思うけど、私はすんごい好きだった!

離婚を経験し、親友を癌で亡くした監督の経験を元に本作は作られたらしく「実話に基づく…」と表記されるのもそのため。自ら「独りよがりの映画」だと語る監督の言の通り、(恐らく)浮気によって彼氏と別れ、また(恐らく癌で)親友までも失った悲しみによる「心の崩壊=世界の崩壊」に見立てた監督自身の内面を少なからず投影した寓話として本作は構成され、親友の残り香とアンティーク(=過去)に満たされた親友の部屋の中に主人公は閉じこもる。


以下少しネタバレかも…。



『ミスト』『クワイエットプレイス』と恐らく比較されるであろうモンスターたちが跋扈する荒廃した「世界」を、7つのカセットテープ(=親友との思い出)を再認識することで救おうとする本作は、単純明快なハリウッド的大団円を迎えるものではなく、「F+F」の言葉によるポータルの先にある「際限なく湧き上がる負とともに生きろ」という、withコロナならぬwith負って感じのサイメッツ『She Dies Tommorow』と近似なメッセージを投げかける。

恐怖演出は、低予算ゆえにモンスターからの襲撃をそのまま演出するわけにはいかないため、音とリアクションそして細かなカットの挿入により焦燥感と危機感を煽る地味ながらも手堅い演出を徹底している。そして音は本作の主役と言っても良く、わざとらしいながらも各シーンにしっかりと調和する曲と不穏なスコアがムードを盛り上げている。主観に合った音を選択するのではなく、音が記憶となり主観を別の場所・感情へ運んでくれる。そんな希望を音へと託した本作は元バンドマンであり本作の曲も作曲した監督ならではの投影でしょう。

様々なモチーフを洒落にならないくらい大量に羅列することで、婉曲的に心的変遷を描くのだけど、モチーフのばら撒き一辺倒になり過ぎていて少し胸焼けする(面倒くさくなってくる?)のはご愛嬌かな。ほつれた赤と白のストローの象徴性は遠く(=憧れでもあり打ち捨てられたものでもある)赤と白の皿を見やる行為へと移動し、最終的には光り輝く太陽と雲へと帰結する。コップに浮かんだ(沈みかけた)ハエはアニメーションパートの自身とリンクし、沈むと浮上も綺麗に対比させている。太陽についても金環日食→覆うもののない太陽への変遷もしっかりと意味を込めている。

欠けたベッドでの演出も地味に上手くて、天井の次カットで彼女を捉えるのは予想外すぎてハッとさせられるし(サラッと2カット仕込むのもうまい)、その後ベッドに移動することにもベッドの「死」から目を逸らす彼女の心的拒否反応が見え、そこから「性」へと移行することにも行動とは違った無意識下の本心的感情が現れている。このソファにおいてもテキトーな毛布で横たわっていたのが、外に出ることを拒む決意のあとは一国の主人的な王様のような堂々とした格好と座り方へと変遷し、更には一匹狼(a lone wolf)を纏うようになる。そして「F+F」にたどり着く=他者を認める(=無線が繋がる)ことで、纏っていた一匹狼は当然ラストに脱ぎ捨てられる。

そんでタイトルにもなっている『Starfish』はヒトデのことなんだけど、スラングで全く動かない人、やる気のない人という意味があり、その点では閉じこもる主人公を象徴し、更には切られてもまた再生する性質から再生や強い生命力をも意味するため、エサとして水槽に投下する序盤と生き残ったラストにも意図を見出せる。そしてクラゲだけど、クラゲの夢は人間関係(特に女性同士)や、それに伴う孤独感、不安を象徴するらしく、ヒトデという自身そのものをクラゲのエサにしようすることは非常に意味深。そしてこの赤と白の対比は全編に渡って貫かれている。上と下に分かれた距離感もその点で非常に重要で、ラストの血や抜けられない孤独、アンコントロールを含めた両義性がwith負を印象付けつつも、温かい気持ちにさせられた。

ガリレオの言葉、キップリングの『IF』にも自己肯定感の欠如からくる無意識下の深層部分が見え隠れし、『白鯨』によって向き合おうとする過去と記憶とその先も浮かび上がる。第四の壁を越えるかのようなメタ構造により強調される「演じている=虚像性と矮小化」は自身の閉じた心へと向けられ、それはアニメーションからも同様の趣旨を見出せる。そしてその虚像と現実の距離感までも演出してしまうのがさり気なく凄い。

スマホが登場せず、アナログなアイテムのみに固執するのは、テクノロジーが人間の本質や心を置き去りにしてしまう危機感から(『キャプテンマーベル』で若返ったサミュエルからそれを感じたらしい😂)。その点からも、アナログな短波無線と喪失&孤独の牢獄を描いた『ショートウェーブ』からの影響(遡れば『オーロラの彼方へ』になりそうだけど…)も感じられる。

そもそもポスアポ世界を心の牢獄化させること自体がホラーでは頻出手法であって、それも含めて借り物を羅列したコラージュではあるのだけど、私的にこれは好きすぎるので何回も見て色々とモチーフを探したいなって思える作品だった。日本に入って来て欲しいけど、入って来たら間違いなく酷評されて平均スコア3.0くらいになりそう…😂Blu-rayが普通に日本Amazonで買えるし、セリフも超少なくて簡単だし、見たい人は是非買うべき!!ちなみに本作の売上は癌の研究に全額使われるらしい。「無駄なものを買うぐらいなら癌の研究に使えば良いのに!」っていう生前の言葉を受けて…のことらしい。
horahuki

horahuki