ロミオ

ドリームプランのロミオのレビュー・感想・評価

ドリームプラン(2021年製作の映画)
4.0
ずるい作品だ。親ガチャなんて言葉が生まれる前の時代、ウィリアムズ姉妹が生まれ落ちたのはスポ根の星、キングリチャード星。そんな彼女たちの反逆のシンデレラストーリーは始まらない。なぜならこのお話の主人公は王様リチャードなのだから。これは一種の洗脳のお話。

スポ根で我が子を教育するのは虐待的なんて思っている偏った人間だから、上記のようなストーリーを想像していたが、案外間違ってもなかったとは思う。客観的にみれば自分の理想を押し付ける狂った父親に見える。観客からもそうみえるように上手にコントロールされている。

だが、ここで主人公がリチャードというのが効いてくる。これでもかと主観的に家族ファーストっぷりを見せられる。それは紛れもない絶対的な家族への愛情。この引けば狂気、寄れば愛のバランスが巧みだと思った。制作陣もリチャードの危うさを理解しているからこその御業。

前妻やその子どもの話などを聞くと、必ずしもリチャードは聖人君主ではなかったはず。かといって、家族に向けられる愛の力強さは純粋に胸をうつものがある。誰しもがもつ矛盾した多面性を描く人間讃歌的な着地には、見る前は思ってもいなかった気持ちで劇場を出ることになった。

結果的に洗脳だったのか否かはもはや誰にもわからない。しかし、家族への愛情をこれでもかとみせられては叩くに叩けない。アカデミー賞でのウィルスミスの行動も含めて、その行為の是非は我々観客一人一人に投げられている。そこに正解はきっとない。やはり、ずるい作品だ。

それでも僕はスポ根星には生まれたくない、そんな映画。
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