ロミオ

ちょっと思い出しただけのロミオのレビュー・感想・評価

ちょっと思い出しただけ(2022年製作の映画)
3.1
タイトルがとにかく秀逸。そこにどんな感情がのっているかはわからない。けど、それ以上でもそれ以下でもない。そんな瞬間は誰にだってあると思う。それが恋愛だろうがなんだろうが。その感覚をそのまま持ってきたような、実直なコピーライティングがすごいなと思った。

ただ前評判の良さから期待しすぎてしまったかもしれない。いまいち自分の琴線には触れなかった。そう思う理由は2つある。想像以上のミステリー的構成の強さと時間経過の感じ辛さだ。後者に関しては自分が気付いてないだけかもしれないが、前者ははっきりと自分はノレなかった。

現在から1年ずつ遡って思い出を巡る本作の構造は、別離から出会いへ向かう「結果→原因」の流れに主になっていると思う。原因を探すという性質上、構造はミステリーに似てくるため、観客は頭のフル回転を余儀なくされる。さらに、映像としてみせるのは誕生日の1日だけという限定的要素により、その難易度はさらに上がる。

このプロット、"思い出す"という行為を映画的にみせることには成功していると思うが、「結果→原因」とは逆の、「原因→結果」の流れによる感情の変化で起こる人間ドラマの部分を我々の想像力にほぼぶん投げているため、そもそもノレないとかなりきつい気がする。ミステリー的要素により推進力もあるのだが、のりたくないジェットコースターにのせられている気分だった。

また、この時間逆行構造が登場人物の感情とリスクしたり、時間経過の尊さと恐ろしさを映し出すように設計されてもよかったと思うが、その描写はあまりないように感じた。2020年が短かったり、公園のおじさんのエピソードなどはあったが、主人公2人の感情に紐付くものではない。それゆえ、時間経過が形式上の形で収まってしまっていまいち感じ辛かった。

この点は私が気付いてないだけかもしれないが、そういった時間経過の感じ辛さのせいで、構造上の特性に、さらにプラスで本当にただ思い出しているだけ感がすごく強くなっている。タイトルそのまんま、本当にそれ以上でもそれ以下でもない。タイトルでそう言い切っているのだからそれでいいのかもしれないが、すごくもったいないとも思ってしまった。

いい意味でも悪い意味でもタイトル勝ち、そんな映画。
ロミオ

ロミオ