平野レミゼラブル

グッドライアー 偽りのゲームの平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

3.6
老人は騙される側という先入観があるからか、老人の詐欺師というものが新鮮に見えてしまう。そしてそのイアン・マッケラン演じる老詐欺師ロイ・コートネイのビジュアルが正に絵に書いたような英国紳士って感じで最高だ。

紳士然としてターゲットの老女に近づき、その一方で投資家をハメるため華麗に暗躍する最初の方こそ、優雅な雰囲気に「騙される」が、徐々に冷酷なただの犯罪者としての顔が見えてくる。取り分に文句のある仲間に対してはリンチによって黙らせ、騙されたことに気付いて詰め寄るターゲットはなんと地下鉄に撥ね飛ばさせて始末するので、その容姿とのギャップが凄まじい。
創作の詐欺師には「クールでクレバーで人を傷つけないからこそカッコいい」というイメージがあり、ロイもその条件に合致する…と思っていたのに全てを裏切ってくる。予想を裏切ってこその詐欺師かもしれないが、地下鉄轢殺に関しては完全に予想のラインをひとっ飛びしてくるインパクトがある。そしてそんな彼の秘めた暴力性にもちゃんとルーツがあって…というのが本作の肝でもある。

コンゲームというジャンル上、騙される側も実は…というのはありふれているし、本作でもターゲットであるヘレン・ミレンに裏があるというのは早い段階で(というか観る前から)わかると思う。本作で一番感心したのは、彼女が何故素性を隠しているのかという「ワイダニット」の部分が思いもよらぬところから飛び出てくることだ。コンゲーム系という騙し方が出尽くしたようなジャンルで、まさかこうした方向から攻めてくるとは思わず別の意味で騙された。
ただ「今のは何?」というような示唆的な場面はあっても、完全に真相を推理できるだけの情報は提示してくれないので、ミステリとして見ることは厳しい。あくまでも、ジャンルを跨いだような意外なストーリー展開と逆転劇に驚かされるが吉である。
ラストシーンも気持ち良く決着がついてスカッとすること請け合い。

全体的に小粒気味であることはまあ否めないけれども、英国の誇る名優イアン・マッケレンとヘレン・ミレンのキマりきった紳士淑女のビジュアルと演技合戦に関しては大作級。コンゲームのジャンルに一石を投じたストーリーも併せて一見の価値アリだ。