平野レミゼラブル

モータルコンバットの平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

モータルコンバット(2021年製作の映画)
3.5
【『AKIRA』の主人公がアキラでないように、『モータルコンバット』ではモータルコンバットが開催されない】
『モータルコンバット』の原作ゲームは僕が一番苦手な格ゲーというジャンルってこともあって全くやったこともなければ、知識も全然なんですが、どうやら原作で一番ウリにしている「フェイタリティ」という絶命演出をしっかりグロテスクに表現してくれているとのことで俄然興味が湧いていました。それに加えて、真田広之に浅田忠信がそれぞれ忍者や仙人めいた存在として現れ、炎や雷を纏って戦うという中二要素盛沢山とあればますます気になる。
それこそ公開直前まで「絶命奥義演出ってことは、あの『るろうに剣心』の和月先生と熾烈なパクリパクられを繰り広げたあのゲームか!!」と『サムライスピリッツ』と勘違いしていたくらいの知識の無さで感想書いていますが、そこら辺はお目こぼしください。


冒頭から(主に子役の)ちょっと怪しい日本語による時代劇が始まり、真田広之演じるハンゾウ・ハサシとその家族による営みが描かれます。ハットリじゃなくてハサシなんだ……漢字でどう書くんだろう。刃刺?葉差?羽佐志?
それはともかく、ハンゾウが水を汲みに行っている間に、咄嗟の判断で妻が隠した末娘の赤子を遺して、襲来してきた謎の中国人氷使いビ・ハンに家族を皆殺しにされてしまいます。
というか、当主自ら水汲みなんて雑事するんだ……見張りの兵とかは結構雇っていたのに下男・下女を雇う余裕はないんだ……あと湧き水と自宅まで結構距離近かったけど、刺客とすれ違うことがないなんてことあるんだ……

もうこの時点で相当数のツッコミどころが出てきていますが、そこからの殺陣で一気に黙らせてくれる。
真田広之のお年を感じさせない見事な殺陣捌きに、『ザ・レイド』同様に相変わらずキレキレな動きのジョー・タスリムの取り合わせが最高。それに加えて倒した兵士に容赦なく追撃していくオーバーキル感が堪らない。倒れた相手をさらに突き刺したり、一度斬った後にさらに首を掻っ切ったりと念入りな死体蹴りが無常で良いです。
クナイに紐を括りつけたロマン飛び道具で翻弄するハンゾウが最高に格好良いですが(映画じゃ咄嗟の機転で作っていましたが、原作ではメイン武器らしいですね)、ビ・ハンの氷結能力の前では分が悪く敢えなく敗死。深い恨みを残したまま、死体も残さず焼失してしまいます。
しかし、赤ん坊である彼の娘は生き残っており、突如現れた目が常に青白く光り輝いている謎の浅野忠信に保護され話は現代……というより突如魔界に移るので脳内に特大の「???」が浮かんでしまう。えっ魔界!?モータルコンバットってそういう話なの!?

えーその後に長々説明される世界設定によると、太古の昔より地球と魔界とあと諸々の6つの世界は支配権を巡って『モータルコンバット』という武術大会を開いていたそうです。
んで、その大会に出場する最強の人間を選出しているのが、目が常に青白く光り輝いている謎の浅野忠信こと雷神ライデン。地球側で代表に選ばれた人物には龍のアザが浮かび、ハサシ家も代々その代表に選ばれる血筋だったとか。
魔界側はシャン・ツンという中華めいた主に準じたメンツで構成されていて、ビ・ハンはサブゼロと呼ばれるシャン・ツン側最強の刺客だったみたいなんですね。

そしてこれまで開かれた『モータルコンバット』では、魔界側が9連勝。どうやら10回勝たれると地球は魔界に支配されてしまうそうなので、開幕崖っぷちなんですが、魔界側には「10回目の試合はハンゾウのおかげで地球側が魔界を打倒する」という予言が告げられていた。だからこそ、先んじてハンゾウを殺しましたし、さらに念には念を入れて地球側の闘技者を全員『モータルコンバット』の前に皆殺しにしようと動き出します。
つまりこの実写『モータルコンバット』はモータルコンバットを描くお話ではなく、その盤外で行われる仁義なき殺し合いを描くお話なのです。



いや『モータルコンバット』をやれよ!!!!!



魔界は何を頓智利かせてんだ!!せっかく9連勝してるのに、それまでの試合を無駄にするようなことしてんじゃねーよ!!「やる前から負けること考える馬鹿がいるかよ」って猪木も言ってるだろ!!
大体『モータルコンバット』ってタイトルなんだから『モータルコンバット』やらなきゃ駄目だろ!!そんなん主人公がアキラじゃない『AKIRA』みたいなもんじゃねーか!!えっ!?『AKIRA』の主人公はアキラじゃないって!?なら良し!!

まあ本作、クリフハンガー作って終わらせているので、今回はあくまで長い前哨戦と考えた方が良いのかもしれません。あくまで『モータルコンバット』を開くための準備体操みたいなもんと考えるべきで。
実際、シャン・ツンもリベンジする気満々でしたしね。次回こそ血湧き肉躍る残虐な武術大会が繰り広げられ……


シャン・ツン「次は軍を率いて戻ってくるぞ」



だから『モータルコンバット』を開けよ!!!!!!!!!



本作『モータルコンバット』なのに『モータルコンバット』をやらないわ、主人公が恐ろしいほどに空気だわ、爆速テンポで話が進むけど全く展開に意味がないわ、そもそもの展開が大雑把すぎるわと言った具合に大小様々な問題点が偏在している超超超ボンクラ映画です。
まさか『モンスターハンター』という弩級のボンクラゲーム実写映画を拝んだ同年に、それを遥かに超えるボンクラっぷりを魅せてくれるゲーム実写映画を観られるとは思わなんだ……!!
本作のちのうしすうは5くらいしかなく、今思い返してみれば実写モンハンは物凄く頭の良い構成をしていたんだな……だって、あっちはちゃんとモンスター倒すために「動きを鈍らせるために毒を使おう!」って作戦を立てて、しっかり毒針手に入れたりしてたもん。
対して『モータルコンバット』はっていうと「魔界に対抗するには奥義が必要だ!」って言ったくせに散々やってきた修行全てに意味がなく「春巻き寄越せ!!」で眼からビームを放つ奥義に目覚めますからね。馬鹿かよ。


……ここまで割と罵倒しかしていないように思えるかもしれませんが、勘違いしないで欲しいのは、僕は本作のこと大好きだってことです。事実、映画を思い返しながらニコニコ笑顔で感想を書いていますからね。
本作の一番好ましいところは、まるで小学生がノートに書き連ねたようなシナリオを大真面目に再現してしまう全力で馬鹿をやっているスタンスでして、その点で行くと100点満点中1000点は突破する逸材なのです。

特に気合を入れているのが原作最大の目玉である残虐な戦闘の決着「フェイタリティ」の再現性でして、回転するギロチン帽子に人を突っ込ませて頭から真ッ二つにしたり、マッシヴになった義手でペチャンコに潰したり、ビームで胴体にデッカい風穴を開けたりと多種多様なグロ表現が非常に楽しい!!
切断面をハッキリ見せたりするグロテスク表現ではあるんですが、思いっきりがあまりに良すぎるのでおぞましさが全くなく外連味しか感じられないんですよね。そのため、決着のカタルシスもひとしおという。

また、話運びに関しても実写『モンハン』のような砂漠が映って仲間同士で諍いが起こった時は「すわ徒歩遅延パートか!?」と不安になりましたが2分くらいで目的地に到着したのでご安心だ。
修行パートも、結局春巻きをきっかけに奥義に目覚めるため特に意味がなかったとはいえ、中身は模擬戦の連続でバトルのやみ間があまりなかったのも嬉しい。原作やってないんで詳しくは知らないんですが、執拗な下蹴り攻撃でハメられるとか原作再現っぽいシーンもちょっと楽しい。

ストーリーが雑さ極まっている部分については、まあそもそもの話の筋自体が馬鹿そのものだからそこまで気にする時点で負けなんですが、それでも無視し切れず気になってしまうくらいには雑です。
春巻きで奥義開眼した時点で修行パートの存在意義は察せられると思うんですが、それでもあまりに蔑ろにされすぎているのには困惑しかない。なんせ、他ならぬ主人公が大切な家族を守るために修業に加わったのに、奥義が全然目覚めないからあっさり家族の元に帰っちゃいますからね。この場面、心の底から「ナンデ!?」ってなりました。この主人公、近年稀に見るレベルで空気な主人公なんですが、こういう消極的な姿勢が原因だと思うぞ。
また、どうやらこの主人公は原作に登場しないオリキャラらしいのですが、最後の最後まで空気に徹しており、原作キャラの活躍の場を奪わない点は褒めてもいいかもしれない。逆に言うと、なんでわざわざオリキャラの主人公出したの?ってことにもなるんで結局褒められないかもしれない。次回作で活躍できるといいね。早速出番食われそうなキャラの登場も示唆されているが。

なんだかやっぱり褒めてんだか褒めてないんだかわからない塩梅の感想になりかけているんで、最後に全面的に褒め称えたいポイントを挙げちゃいましょう。
それは何と言っても日本人が大活躍していること!!やっぱりね、どうしても同じ日本人である以上、日本の役者がハリウッドで大活躍している姿ってのは拝みたくなっちゃいますからね!!
それでも、半ば諦めているというか、醒めた目線で見ている部分もありまして、特に今回の日本人キャストである真田広之と浅野忠信は「満を持してハリウッド出演!!」ってなった割に客演レベルで全然活躍していないことがザラでしたからね。ソーの友人でアスガルドの戦士として出てきたと思ったらいつの間にか故郷に帰ってしまっていて、いざ戻ってきたと思ったらあっさり死んだりとか、信じられないくらいの端役として処理されたりとか。
ですが、本作では2人とも作中最重要人物として大活躍する!!もうこの点は大いに褒めたい!褒め称えたい!!

特に真田広之の活躍がとんでもなくてですね、冒頭で凄い殺陣魅せてくれただけでMCUでの活躍の数兆倍の満足度があったのですが、なんとその後も度々現世に干渉。それどころか、原作での「フェイタリティ」再現として口から火炎放射まで吐いてくれるという大盤振る舞いっぷり!!
真田さんも「殺陣の中で刀を使いたい」とスタッフに提案して採用されたりと、相当イキイキとハンゾウ・ハサシを演じてらっしゃるようでほっこり。そしてやっぱり、アクションスターだけあって刀捌きがキレキレ。
『モータルコンバット』でこれ以上ない輝きを魅せる真田広之ですが、インタビューでも「以前と比べて日本人の枠が広がってきた。これからも後輩たちのためにこういう活動を続けて、どんどん日本の才能が世界に羽ばたけるような土壌を作りたい」と語っていて非常に格好良い。「天下の真田広之が口から火炎放射を!?」じゃあないんですよ。ハリウッドに渡った日本人誰しもが口から火炎放射を吐ける土壌をこそ真田広之は求めている。その姿勢が本当に最高です。


なお、浅野忠信に関しては戦っちゃいけないポジションな上に、折角探し求めた主人公を「奥義覚えねーとか使えねーなー。家族のとこ帰っていいよ」と抜かし出す9連敗も納得のクソ無能プロモーターでしたが、常に両目が青白く光り輝いているビジュアルが面白すぎるんでこれはこれで良いです。役割も雷神なので、ソーの友人其の③くらいのポジションから考えると大出世と言っていい。

…と言った感じで、あまりにボンクラすぎて手放しで褒められはしないけど、真田広之が火炎放射を吐くことに大興奮できるボンクラ人間であれば1億%楽しめる作品でしたね。僕は1億%楽しみましたよ。ええ。
もう本当に頭空っぽにしてね、単純に楽しむべき作品でしかないからね。そういう意味では今年一番楽しかった作品だと思いますよ、本当に。