horahuki

ダニエルのhorahukiのレビュー・感想・評価

ダニエル(2019年製作の映画)
3.6
イマジネーションを恐れるな

『デッドガール』で自己の抑えられない怒りの感情をメンヘラ女として具現化させたアダムエジプトモーティマー監督の新作。今作は「自分」の主導権を巡ってイマジナリーフレンドとチャンバラバトルする異色ホラー。製作会社は『マンディ』『カラーアウトオブスペース』でジャンル映画注目株として話題のSpectreVision。

自己の内面の具現化といった方向性は監督の過去作『デッドガール』と同様。『ホリディズ』内の短編『父の日』でも自己の写し身のような存在と対峙する姿を描いており、このテーマどんだけ好きなんだと監督のブレない姿勢に感服。とは言っても、元々『デッドガール』の前に本作の企画があったようで、本作の準備が整うまでにそのプロトタイプ的に『デッドガール』を作ったのだろうなということが推測できる。

自己の内面との対峙なんてありふれたテーマなわけだけど、この監督が面白いのは自己の写し身に笑えてくるほどの極端な個性を与えるところ。『デッドガール』では上に書いた通り超絶メンヘラ女だった(ちなみに本人は男)し、本作では細マッチョなインテリ風キチ◯イ。演じてるのはシュワちゃんの息子。筋肉もりもりマッチョマンの変態味の承継を存分に味わえる。

両親の不仲・暴力・離婚。母親の精神疾患。友達のいない孤独。偶然にも目撃してしまう悲惨な殺人現場。そして母親を殺したいという衝動。これらが偶然にも全て重なり歯車が噛み合ってしまったために彼の中にイマジナリーフレンドが生まれてしまう。でもそれもまた自分自身。しかし彼は向き合うことをせず、IFをドールハウスに閉じ込めたまま大人になってしまう。目を背け続けたために肥大化した「負」は、それまでの間自身から削げ落ちていた感情であるが故に彼の目には大人になり復活したIFが「自分が持っていないもの」として魅力的に映ってしまう。

誰しもが抱える「負」はあくまでもその人を形作る一部として心の中に存在し続けるべきもので、外向きの感情とのバランスを保ちながら生きなければならないもの。そのバランスの保ち方を知らない彼は、IFに惹かれ、次第に自分の心の主導権を脅かされ始める。ミキサーなり雷雲なりの回転運動が何度も挿入されるあたりにも混ざり合わない心的断絶が表現されていた。

展開のさせ方としてはクローネンバーグの『ザ・フライ』のようで、レンガ壁の障壁は『未知空間の恐怖』、異空間への道は『ファンタズム』からの影響をそれぞれ感じる。そして「負」の感情の出どころを異次元由来とし、決して手出しのできない彼方側に設定するのは『プロメア』や『ブライトバーン 』と同様で最近の流行に乗っかってた。悪魔にして茶化してしまうのは、メンヘラ女に仕立て上げたAEM監督らしい遊び心ある演出で好き。

突出した何かがある作品ではないけれど、顔面が触手のようにウネウネしたり、口の中に人が入っていく衝撃(笑撃)シーンだったりとビジュアル的にも楽しい。最近のSpectreVisionらしいドギツメな色彩もニコケイ2作ほどではないけれど取り入れられてて、割と面白かった。
horahuki

horahuki