マンボー

彼女は夢で踊るのマンボーのレビュー・感想・評価

彼女は夢で踊る(2019年製作の映画)
3.6
薄汚れて、風に土埃の舞う雑踏も今は昔。現在では清潔な街に生まれ変りつつあるのに、その街路を横切った先に見えるのは、蔦の這うくたびれきった外壁に、一ヶ所だけ点かない文字のあるネオンサイン。

古ぼけた外観のストリップ劇場の、小さな舞台に立つ様々な事情を抱えた旅暮らしの踊り子たちと、彼女たちを支える数名の劇場の人々。昭和への郷愁に否応なく誘われる懐古的作品でありながら、舞台になる街は現代的に見える不思議な作品。

思えば、平成の中盤ぐらいまでは、どこそこにピンク映画の劇場があったり、ストリップ劇場があるという噂ぐらいは耳にしても、ついぞ訪問の機会なく過ごしてしまったので、その世界に携わる人々に興味があって足を運んだ。

ストーリーは、若い青年の踊り子との恋。ところが、いつしかその踊り子は青年の働く広島第一劇場にやって来なくなって、青年も年をとって、劇場主になるがどうしても彼女のことが忘れられず、客も減り何度か閉館を謳っても、いつか彼女が訪ねてくるのではないかという思いが捨てられず、なかなか閉館を思い切れない物語。

たわいないといえば、たわいないけれど、男は女を忘れられない真を突いた物語に、ストリップ劇場の踊り子、劇場を支える人々、彼らを取り巻く人々の暮らしや生態が垣間見られて興味深かった。

また、踊り子の踊りというと、正直もっと隠微なものを想像していたけれど、本作に登場した女優さんや本職の方の舞台は、いやらしいというより、露出と装飾の多いバレエのような印象に近く、よりスポーツ的で芸術性すら感じるものだった。

主人公の加藤雅也の雰囲気が良い。風貌はかっこいいし雰囲気もあるけど、やっていることはさっぱりかっこよくなくて、時代に逆らってもはや落ち目なのに、その哀愁が奇妙に愛しくてたまらない。

ストーリーでは過去のシーンにも現代の街が使われていて、序盤はやや混乱するし、あくまでミニマムな物語で、意表をつく展開にも乏しいが、ストリップ劇場とそれを取り巻く人々の生態をしっかりフィルムに焼き付けて、資料的価値もあるに違いない作品。

ストリップ劇場の入場料が一回5000円。生身の女性が裸一貫で舞台に上がることを考えれば、けっして高いとは思わないけれど、正直自分なら割引を上手に使って映画を四本観てしまうなぁ。はぁ……。