140字プロレス鶴見辰吾ジラ

マリッジ・ストーリーの140字プロレス鶴見辰吾ジラのレビュー・感想・評価

マリッジ・ストーリー(2019年製作の映画)
4.3
【YOU&Iそして自由の代償】

互いの長所朗読と幸せな家庭の回想シーンで既に心がざわつき締め付けられる。互いが互いの長所と短所を受け入れながら過ごした日常はスカーレット・ヨハンソンの仏頂面で切り裂かれる。とにかくスカーレット・ヨハンソンの演技は不安定と強さを行き来しながら作品の熱量に変換すべく薪をくべ続ける。

レイ・リオッタ扮する弁護士の常識と非常識がぶつかったら平均値をとって非常識になるというネガティブな戦略ワードと相手の女弁護士の欠席裁判の脅し文句が絶望へと引きずり込む。

法廷の列を成した貧民層を尻目に過激なコンタクトをする弁護士ゲームとなりゆく様と、互いに帰着点を見つけられなかった2人の憂鬱が内面の考えを抑圧する中で発火するポスターのシーンへの突入。とんでもない熱量の口論シーンは徹底的に居心地悪く、少しの爽快さを抑圧されていた映画鑑賞の業を焚きつけながらもなお胸の痛みは増す。緻密に積み上げられた所作や修復云々への希望にダメージを与え続ける。

しかしながら本作は互いが互いの道、そして分岐点のなる子どもからは目を離さず、そしてミュージカル映画の文法である“空間“と“時間“を切り取ったところで本音が交差し、エモーションの上下を見事に表現して見せる。

愛情の行方とエゴとエゴのシーソーゲームが弁護士という代理人制度によって戦争状態になりながら、互いが互いを生かし殺し、そして生かす人間の内面の真理によってクライマックスへ2人を見送らせる温かさへと導く。

ハートフルからは手を離しながらも心と心の置き場所は、監督自身が経験した互いの消耗戦をよしとせずミュージカルを意識させる本音の吐露と劇団と劇団員の演技というメタフィジカルな着飾りの中で常に熱さと厚さを本作の核に置くのであった。