タケオ

ディック・ロングはなぜ死んだのか?のタケオのレビュー・感想・評価

3.4
 『スイス・ミー・アーミー・マン』(16年)で長編デビューを果たしたダニエル・シャイナート監督の最新作。全体的に『ファーゴ』(96年)を彷彿とさせる作風ではあるが、本作には「殺し屋」や「マクガフィン」といったサスペンスらしい要素はほとんど登場しない。ど田舎で暮らすどうしようもないバカたちが、度を超えたバカな行動のせいで信じられないほどバカな事態を引き起こし、バカなりになんとか事態を収拾しようとするものの、あまりにもバカすぎるせいで全てがおかしな方向へと転がっていく様を描いたブラック・コメディであり、『ファーゴ』のようなサスペンスではないのだ。
 『ビルとテッド』シリーズ(89~20年)や『ウェインズ・ワールド』シリーズ(92~93年)など、どうしようもないバカたちの姿を肯定的に描いた作品は数多い。前述した作品に登場するバカたちに僕たちが羨望の眼差しを向けることができるのは、彼らが全く裏表のない心地よいバカだからだ。だからこそ、彼らの常識外れともいえる言動も「良きこと」として受け入れることができる。しかし、彼らのようなエクセレントなバカなどほとんどいない。実際には短絡的で、自己中心的で、分別のないバカが大半だ。そんなどうしようもないバカたちが如何に有害な存在であるかを、本作は辛辣なタッチで描き出す。今この瞬間を乗り切ることしか考えることのできないバカたちの姿は側から見れば滑稽だが、そこには「他人事」として割り切ることのできないリアリティがある。
 シャイナート監督が主人公2人のことを「有害な存在」として描いているのは確かだが、彼らの度を超えた愚かさを「他人事」として安易に断罪するようなことはしていない。むしろ、彼らの姿に「シンパシー」を抱いているようにも思える。人間は常に、例外の余地なくバカな間違いを犯す。自らの内にある「愚かさ」から目を逸らさずに向かい合おうとする本作のスタンスは、正に誠実そのものだ。
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