ヨーク

ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打上げ計画のヨークのレビュー・感想・評価

3.8
実話ベースでインドの宇宙開発を描いた映画なのですが、なんか色んな意味でインドっぽいなぁおい! という感じの映画であった。面白いは面白いんだけどね、なんつーか全体的に展開とか演出が雑というか大雑把というか、まぁよく言えば大らかで懐が深いとも言えるのだろうがこれ適当にノリと勢いで誤魔化してるだけなんじゃないのか…というところが割と散見されるんですよね。いやまぁそこも含めてインド映画っぽいなぁおい! という感想になるんだけど、まぁ面白い映画ではありました。
あらすじはインドの宇宙開発局で働く天才科学者のおっさんがいるんだけど冒頭でロケットの打ち上げに失敗するんですね。んでNASA帰りのインド人科学者がやって来て別のプロジェクトが始まるんだけど失敗したおっさんはそれに反対。いわくNASAにもらった技術で成功しても意味はない、たとえ茨の道でも自前の発想や技術で勝負することが大事だしそれこそが科学マインドだ、とのこと。まぁそこには自国の技術で成功を勝ち取る! というナショナリズムに訴えかけるような部分もあるのだが結局おっさんは火星開発という聞こえはいいが事実上の閑職に回されてしまう。しかしそこで共に仕事をすることになったロケット失敗時の元部下の女性が安上がりで火星に探査機を飛ばせるアイデアを持っていてそこから大逆転劇が始まる、というものですね。ちなみにその科学者おっさんと元部下の女性のダブル主人公って感じです。
お仕事モノの映画ではよくあるような展開のお話なのだがやっぱインドは凄いっすよ。よくあるあぶれ者や問題児集団みたいに一癖も二癖もあるような、というか他の部署では使いにくそうな感じの人物が火星ミッションのチームにやって来てお約束的なそれぞれの紹介パートとかあるのだがぶっちゃけそこからあんまり堀り下げられない。妊娠したメンバーとか男好きで野心家なメンバーとか夫が前線にいるっぽい軍人で彼のことが気になって仕方ないメンバーとか色々いるんだけど、あんまり彼らのお話が膨らむことはないんですよね。
本作は基本的に火星探索プロジェクトの予算的な面と納期的な面での問題が交互にやってくる感じでそれを解決していくことでお話が前に進む構造なんだけど、そこにあまり個人としてのキャラクターが食い込んでくるようなことがないんすよ。あっても強引な感じ。たとえばマジかよと思ったのは予算的に燃料が制限されるから探査機の推進力が足りなくなるという場面で、その担当者がどうするか悩んで結果的には帆船が風を受けて進むように探査機をマスト状の構造にして太陽風を利用すればクリアできるのではないかと思いつくシーンがあるのだが、しかしそのアイデアというのはなんと自宅のクッションに帆船のイラストが描かれてあるのが目についたから思いついたというたったそれだけの理由からなのだ! いやそれでいいのかよ! いやまぁ確かに本作は序盤から生活の知恵的な常道ではないが抜け道的なアイデアで宇宙開発を進めていくというのが根本にある映画でそういうコロンブスの卵的な発想が科学には重要だということも分かるのだが、しかし映画としてはそこにキャラクター個人の物語とかも重ね合わせたりしなければいけないだろう。そういうのないんですよ。全然ない! なんか基本的にメインテーマみたいないい感じの曲がかかるとみんな不意にナイスアイデアを思いつくからね! ノリが毎週ほぼ同じフォーマットで展開されるお約束ありきのホビーアニメとかと同じなんですよ。
しかしそれがつまらないのかというと別にそういうわけでもない。本作にはフェミニズムやガールズ・エンパワーメント的なあれこれもふんだんに含まれてはいるのだが、それも正直型通りというか取ってつけただけというか、今はこういうのがウケるから予算取りやすいんだよね、とでも言わんばかりの開き直りさえ感じるような紋切り型なのだ。しかしそれもそんな適当でいいのかよとは思うが別につまらない要素になっているわけではないのだ。何て言うんすかね、適当ではあると思うんだけど勢いとノリがその粗も全部流していってしまうんですよ。電車内での乱闘シーンとか失笑ものではあるんだけど、でもあれってきっとインドにおける女性の立場の弱さを考慮するとめちゃくちゃスッキリするシーンなんですよね。ボコボコにされてた人そんなに悪いことしてないだろ…という気もするけど、でもなんかやたらエモーショナルな勢いがあるからそれに飲まれてしまうんですよ。
主役の一人である科学者おっさんも設定上は天才科学者らしいが描写的にはパワハラ上司じゃん、とかガールズパワーを描きながらもこのおっさんのせいでそのテーマぶれてないか、とか色々あるけどなんかパワフルかつスピーディーな展開なので退屈せずに面白く観れちゃうんですよね。劇場を出て自宅に帰ってから、そういや主人公の息子のムスリムへの改宗問題とかどうなったっけ…とか思い出すんだけど観てるときはあんまり気にならないという勢い重視な映画なのでした。息子の改宗問題とかそれだけで一本映画撮れるだろと思ってしまうがそんなことは些末な枝葉だという風にモーレツに進んでいく映画でしたね。それくらいのパワーがないと火星までは行けないのかもしんないっすね。そういや息子といえば最後の締めのセリフが妊娠して無事出産したメンバーの赤ちゃんに向かって「あなたならあの星(火星)に行けるわ」っていう感じのものだったんですが、それもなんつうかベタというか捻りのない締め方なんだけどすげぇグッと来てしまったんですよね。ストレートなパワーで押し負けたっていうか、最後までそんな感じの映画でした。
色々ツッコミどころはあるけれど面白かったです。
ヨーク

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