Shingo

今宵、212号室でのShingoのネタバレレビュー・内容・結末

今宵、212号室で(2019年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

浮気、不倫が題材であるだけに、不倫ダメ絶対という方の口には合わないだろう。そこは一旦おいといて、結婚とは、夫婦とは何かを問う、ある種の思考実験っぽい映画。

日本でもフランスでも、民法で夫婦は貞節を守ると明記されている。では、不倫が許されないのは法律で禁止されているからか?そうではないだろう。
主人公のマリアの職業が司法・訴訟史の大学教員であるのも、何が正しいかを決めるのは法律ではないことを理解している人物、ということを示唆している。

民法は何らかの損害を受けた時に、それをどう保障し解決するかを取り決めたものであって、不貞行為もその範疇に含んでいる。逆に言えば、不貞行為がなんら損害を与えないのであれば、問題はないということになる。
マリアは「損得」でモノを考えるので、夫婦がうまくいっているなら浮気は問題ないと考えている。

世間一般で不倫は悪とされ、浮気すれば人間性まで否定される風潮が強まった昨今、では何故、不倫が悪なのかを論理的に説明できる者はいるだろうか。
「信頼を裏切る行為」であるとするなら、その信頼とは何なのか。あらかじめ「浮気はしない」という取り決めをしていたなら、約束を破ったことにはなるが、そんな約束をしたつもりがなかったのなら?

マリアは若き日のリシャールに、「損得しかない女に、音楽は必要か?」「体だけはキレイなまま」と痛烈な言葉を浴びせられる。
理屈では浮気を肯定できても、相手の気持ちまで納得させられるかは別だ。かつて夫に別の恋人がいて、彼女と添い遂げた方が良かったかもしれないと言われれば、やはり心は揺れる。

確かに、浮気が本気になってしまったら問題だ。だが、その浮気相手とすら打ち解け、共に愛し合おうと考えるなら、何が問題になるのだろう。
ついには、リシャールから元カノも浮気相手もまとめて結婚しないかと提案される。
ここに至って、さすがにマリアもその思考に鍵をかけ、封印をすることになる。

結婚とは、つまるところ、たったひとつを選択することなのかも知れない。他にあり得たかも知れない可能性、人生の中から、その人を選ぶ。そして愛は、その選択の積み重ねの中にあって、この先も愛し続けられるかどうかではない。
愛は現在や未来ではなく、過去にあるというのは、独自の解釈ながら、納得させられるものがある。

翌朝、マリアは夫と短い会話を交わし、職場へ向かう。だが、彼女は本当に夫のもとへ帰るのか。このまま、別々の道を歩むのではないか?
その答えはこちら側に委ねられていて、そこに私たちの結婚観が表れているのかも知れない。

全編に漂うゆるい雰囲気、シャルル・アズナブールをはじめとする懐かしい楽曲、小気味のいい会話劇とテンポの良さが相まって、あっという間の87分。笑って考えさせられて、すごく心地よい時間だった。
賛否が分かれる作品だと思うが、私は嫌いじゃない。
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