horahuki

WAVES/ウェイブスのhorahukiのレビュー・感想・評価

WAVES/ウェイブス(2019年製作の映画)
4.0
善性という凶器

主人公と同じように高校時代にレスリングをして肩を痛めた経験があるシュルツ監督による、自身の周囲を取り巻く関係性を登場人物それぞれに投影させたドラマ。『クリシャ』が大阪でも公開されるのかどうかは知らないけれど、公開されることを願って見ました!

家族の崩壊を描いた監督の前作『イットカムズアットナイト』で家族の崩壊を齎らした「イット」についての例示的な示唆を本作では提供し、『イット…』と同様に「家族」という関係性における表裏一体的な複雑さを描く。その複雑さ故に送り手側が表(善)として現したはずの言動が受け手側で裏(悪)へと腐食し始め、それぞれが持つ相手を思う善性故に、発せられた言動は行き場をなくして自己完結、腐食したまま滞留し蓄積してしまうという出口のない地獄をわかりやすく全面に押し出した「個」と「関係性」についての分析となっていて面白かった。

心情表現としてのギラついた色彩や過剰なほどの音楽、アスペクト比の度重なる変更、高速で動き回るカメラによって寓話的フィクションであることを強調したかと思えば、覗いてはいけないものを覗いているかのような位置どりのカメラが現実味のあるキャラクター同士のやり取りを捉え続けたりと、強調させたい事柄ごとに虚構(心情)と現実(反応)を意識的にレイヤー分けして各シークエンスにおける演出を構成しているのがわかる。

確固たる善性としての自覚があるからこそ、その善性から発せられる言動が想定以上に苛烈になっていくのがリアリティあって辛くなった…。そしてそれは相手を思うからこその関係性を前提とした善性だから、自分の中で自分・相手の善悪の構図は既に決定されていて、相手を屈服させるためだけの「凶器」にしかなっていないし、その「凶器」の凶器性を全開に感じさせる中盤あたりのアレは虚構と現実双方からのアプローチにおけるひとつのゴール地点として単純に上手いなって思った。

ラストもアレを送らないってのが流石のシュルツ監督!めちゃくちゃセンスある!これまで送り手側の一方的に送り続ける行為を描いてきた本作が送らない行為で幕を閉じる。しかもアレは受け手側的にも恐らく望んでいた言葉であるわけで、ここにもまた新たな「個」と「関係性」についての分析の切り口が生まれてる。まるで次回予告みたいな監督の次作を予感させる素晴らしいエンド!というかプレイリストムービーとか言われてるみたいだけど、音楽全然わかんないからそのあたりサッパリだった😂
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