平野レミゼラブル

白蛇:縁起の平野レミゼラブルのネタバレレビュー・内容・結末

白蛇:縁起(2019年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

【定命の者へ爆速テンポで贈られる千年の恋】
昨年『羅小黒戦記』に大興奮して以降、すっかり中国アニメ映画沼にハマってしまったのですが、幸い供給量はかなり多めで、まず今年に入ってから『ナタ転生』という3Dアニメでブチ上がり、続いて羅小黒戦記の外伝コミック『藍渓鎮』の邦訳版が出て堪能。そして、始まるWeb版『羅小黒戦記』の「衆生之門編」!!
特に「衆生之門編」はスッゲェー面白かったですよ!!Filmarksに登録されてないからついでにここで語っちゃいますが、小黒一行がグリードアイランドやSAOを思わせるネットゲームに挑み、そこでの戦闘がもう劇場版クオリティ!!ゲームの中だからこそ本気モードで小黒が暴れ狂い、そしてゲームの中で疑似的に友達の死を経験することで、小黒がこれから進む「館の執行人」という道についてシリアスに思い悩むという。
そして、遂にWeb版で満を持しての年号大人ことムゲン師匠の本格参戦!!40話かけてやっと!という感慨もひとしおですが、相変わらず小黒に自ら考えさせて自分で選ばせるという厳しいながらも誰よりも優しい姿勢を見せますし、彼が最終的に選んだ道に思わず涙。うわあ!次のシリーズが楽しみすぎるんですけど!!監督によると現在は劇場版第2弾を製作中で、完成は3年後くらいとのこと。何もかもが楽しみすぎる……

話を戻します。
そんな勢いマシマシの中国アニメ映画『ナタ転生』の予告に流れて興味を持った本作。一応2019年9月に3日限定という極めて小規模な上映を行っていたようですが、同じように小規模公開→吹替版製作で大ヒットを飛ばした『羅小黒戦記』同様に日本語吹替版を製作しての大規模上映となった模様。中国アニメ配給でおなじみのチーム・ジョイが今度はブシロードやジャニーズとも手を組み、三森すずことSnow Man佐久間大介という両陣営の売れっ子を投入したとのことで、気合の入りようが窺えます。
またジャニーズは日本語版主題歌、ブシロード界隈からはスタァライトクロちゃんの相羽あいなやバンドリ!愛美も参戦していたりで本当に気合が入りまくっている。まあ後者2名は誰を演じているのかまではわからなかったのだけども。

本作『白蛇:縁起』の下敷きになっているのが中国の民間伝承「白蛇伝」。バリエーションが多種に渡る伝説なのですが『白蛇:縁起』の場合は『白娘子永鎮雷峰塔』の派生ですね。
中国では齢千年を経た動物は人間の姿に変化できる妖怪となり、ヒロインの白娘子も白蛇の妖怪。妹で青蛇の妖怪・青青と暮らしていた白でしたが、ある雨の日に船をともにし、帰り際に傘を貸してくれた薬屋の男・宣と互いに恋に落ちてしまう。
実は宣は前世で命を救ってくれた恩人で、そのことに気付いた白は傘を取りに来た宣を盛大にもてなし、そのまま結婚します。
しかし、妖怪退治を生業とする僧侶・法海が白を妖怪と看破しつけ狙う。そして卑劣な策の下、宣は寺に軟禁され、白は蛇の姿に戻され絶体絶命に。
白は力を振り絞って大洪水を起こし宣を逃すも、法海に敗北。命からがら逃げ出した白は出会いの地である杭州は断橋で宣と落ち合い、その地で子供を産みますが、執念深い法海は家まで突き止めて白を雷峰塔へと封印してしまいます。
数年の時がそのまま経ちますが、その間青青は山奥へと逃げて修行を続けており、法海をも超える仙術を身につけます。その力で封印は見事に解かれ、白は再び宣と子供、そして青青も混じえた四人で幸せに過ごしましたとさ……
というのが『白娘子永鎮雷峰塔』の概要。現代でも派生作品は多く作られており、『白蛇:縁起』には他に1992年のドラマ『新白娘子伝奇』のオマージュも組み込まれているとか。

『羅小黒戦記』、『ナタ転生』のナタ太子といい、中国アニメ作品は自国の伝説を元にファンタジー作品を派生させるのが十八番な感じですが、これは中国の伝説を物語に組み込むと政府から助成金が貰えるという事情もあるようですね。
とはいえ、総じて太古の伝説を今の時代にウケるようアレンジを加えていて実際面白いので無問題(モウマンタイ)。むしろ、中国の伝説の元々の面白さも合わさって最強に思えるので、これからもじゃんじゃんやってほしいくらいなんですが……!!

その伝説からプラスした要素ないしパワーアップさせた部分が魅力的でして、白娘子(ハク)や青青(セイ)は仙術を使えるのですが、それを最大限駆使した能力バトルの側面があります。
ハクは風を操り空を飛ぶことが出来ますし、セイは氷を操り相手の動きを止めたり投擲武器として利用することが出来ます。これらを用いて敵である道士や国師が操る呪術に対抗したバトルシーンは一大スペクタクル!!
さらに彼女達は何百年も生きた蛇の妖怪であるが故に、自在に蛇の姿へと身を変えて(戻して)のトリッキーな動きもするので、能力バトルでありがちな「棒立ちエフェクトモリモリバトル」にしない工夫があります。蛇変化の形態も、「完全な蛇」、「下半身が蛇(ナーガスタイル)」、「顔に鱗が浮き出る」といった形で段階があり、能力使用時や感情の昂りに応じて変化度合が変わるのもわかりやすい。あと、鱗とかの表現が一級品でリアルかつ妙に艶めかしく、モンスター娘フェチには堪らんやも。逆に爬虫類苦手な人は本当にキツそうな質感ですが……
『ナタ転生』でも感じましたが、中国の3Dアニメ技術は最早世界レベルに達しており、美麗かつケレン味のある映像表現に全力投球なため、画が常に格好イイです。

伝説の翻案も中々オシャレでして、ハクの思い人である宣(セン)とのやりとりで使われる「傘」については、これとハクの仙術を使って2人で空を飛ぶという何とも雄大でトトロちっくなイベントに。
中国の美麗背景との調和も取れていて、そんな美しい中を颯爽と飛び回る2人が惹かれ合う工程をダイナミックに表現しています。

そんなセンは伝説通り普通の人間ですが、幅広い知識を持っている上に機転が利く頭の良い男なので、能力バトルに割り込んでも全く邪魔にならないというのが強み。それどころか「いくらなんでも超速理解すぎない???」という頭の回転が如何なく発揮されており、積極的に物語を推進させていきます。
むしろ、本作は観ている側が割と困惑するレベルの爆速テンポと言って差し支えなく「いや、これ普通はもっと後の方で明かす展開じゃない?」ってとこを序盤の内から開示していくスタイルです。

爆速テンポで話を詰め込んでいくが故に、クライマックス近くにもなると、展開の畳み掛けが物凄い勢いと化します。仙術戦、集団戦、頭脳戦、ボスラッシュ、そして最終的には大怪獣バトルとしか言えない大迫力の絵面を投入していくので異常なまでの熱量を一気に体に注ぎ込まれる心地がある。
怒涛の展開すぎて割と「考えるな!感じろ!」の領域でしたが、前述通り映像美が凄まじいのと、バトル描写の良さで満足度は高いです。ただ本当爆速テンポなだけで……

・本作の爆速テンポ一例
「ここの山は女性が登るには無茶だよ!」→「凄い!仙術で登れるんだね!!」
「占星術の知識がないとわからないぞ」→「あったよ占星術の知識が!」「でかした!」
「なんかヤバめのとこに閉じ込められちゃったぞ!」→「あったよ出口が!」「でかした!」
(おもむろに脱ぎだす)→(秒で抱く)
「喰らえッ!なんか序盤から伏線にはしていたけれど、まさかこの局面でこんなジョジョのスタンドバトルみたいに応用して使うとは思わなかったから驚いた攻撃ィィィ!!」「グワァァァアアアア!!」→「おのれ小癪な!(秒で無効化)」

あ…あの……もう少し情緒を………

この爆速テンポ、次々イベントが発生して飽きさせないのが明確な強みである一方、あまりに展開が目まぐるしくて観ている側の理解が追い付かないことがザラなのが弱みであるというように好悪表裏一体なのです。
理解だけでなく感情の整理もしづらい部分が多くてですね、例えば一緒に歌ったりと陽気でそれなりにキャラも立っていた船頭の爺さんがいるんですが、彼は途中で敵の襲撃を受けて川のド真ん中に落ちちゃうんですね。それこそディズニー映画とかだったら敵を倒した後に、爺さんを救うなり、何とか爺さんが岸辺に流れ着いて助かる一幕を入れると思うんですが、本作はそういうシーンが一切入らないまま次のシーン行っちゃうんですね。なので、僕は「あの爺さん死んじゃったのか…」ってちょっと引っ掛かってしまった……
いや、確かに省いた方がテンポはいいんだけど、一手間入れた方がもう少し気分良く次に進めるんじゃないかなァ…って場面がこの船頭の爺さんの場面に限らず結構あるんですよ。なので、ちょっとこのテンポに関して全面的に肯定はしづらいかなァ……

爆速テンポの影響を一番受けているのがセンでして、例に挙げた『彼岸島』めいた爆速理解・行動・解決の大半は彼によるものです。
知識に貪欲で優しく柔軟という設定は、それこそ物語序盤から示しているので、その即断即決のイケメンナイスガイな行動の説得力はあります。あるんですが、それでもその即断即決ぶりが若干サイコな時があってオイオイってなるという……
特に顕著なのが人間のままではハクと結ばれないと知って思い悩む場面なんですが…

「私の道具を使えばハクと結ばれることも可能だ」
「使いまァす!」
「見返りとして人の精が必要だ。つまりお前は妖怪になる」
「なりまァす!」
「なったよ!妖怪!!」

衛宮士郎だってもうちょい躊躇するぞオメー……


とは言え、センとハクの千年を超える愛の部分に関しては流石に丁寧に、そして余韻たっぷりに描いてくれてはいるのでテンポの使い方を誤っているワケではないです。通常テンポを守るべき時には守ってくれている。
映画全体の爆速テンポについては、定命の者たる我々にとっては早すぎるように思うだけ……と補完しておきましょう。それこそハクにとってのセンとのアレコレは、千年におけるほんの数日の出来事に過ぎないというのがまた何ともロマンチックじゃないですか!この数日にかなり詰め込みすぎってのはまあその通りとしてもだ。


あと、今回映画界隈じゃ嫌われがちなジャニーズがかなり良い仕事していまして…というよりセンを演じたSnow Manの佐久間大介くん、声の演技巧すぎじゃありません!?普通に梶裕貴系のイケボで本職の声優たちの中に混ざっても違和感がなく、むしろ軽快かつ溌剌と声を弾ませ、劇中歌も情緒豊かに歌い上げているので文句のつけようがございません。
ニノ、ゴローちゃん、森田剛と演技巧いジャニーズ出身者は割といますが、声優方面でここまで巧い人ってのも珍しい。『遊戯王』の風間俊介くんくらいじゃないか?でも、風間くんだって最初の方は「なぁにこれぇ」って感じだったのを、200話以上かけて磨き抜いたが故の演技力なため、これまでゲスト出演1回程度のキャリアでここまで仕上げる佐久間くんのポテンシャルが恐ろしいです。
調べたところによると佐久間くん、どうやら生粋のアニヲタらしくアニメ&声優愛が半端ないという。だからこそ声の演技の機微がわかるし、研究も普段から相当していたんでしょうね。いや、それにしたって愛だけでこの領域まで…?って感じではあるので、ジャニーズと同時に代アニ通ってたんじゃないのかって訝しんでしまうんですが……
あやねるが「バチクソうまい」、杉田智和が「気を遣うゲスト声優ではなくて共演者」とベタ褒めしているのは、決してリップサービスじゃなくてガチだと言うのは私からも保障しておきます。
Snow Manが歌う日本語版主題歌『縁 -YUÁN-』も楽器に二胡、歌詞に中国語が取り入れられた上、本編の内容を丁寧になぞったもので雰囲気に滅茶苦茶合う。流すタイミングもちゃんと本国版のEDを全て流し終わった後なので、やはり文句のつけようがないです。

そして、エンドロール最中のクリフハンガーや、本編終了後に流れる『白蛇2 青蛇劫起』の予告映像からして、やっぱりこれユニバース構想あるんじゃあ……特に『青蛇劫起』に関してはタイトル通りセイが主人公になっているばかりか、時代が一気に飛んで高層ビルが立ち並ぶ現代になっているという……『ナタ転生』の方とも時代が被り出しているし、これはクロスオーバーしそうな雰囲気……
中国アニメ映画沼、どうやらいよいよ本腰を入れて浸かっていく流れになってきているようです。

オススメ!