ラウぺ

ジャスト 6.5 闘いの証のラウぺのレビュー・感想・評価

ジャスト 6.5 闘いの証(2019年製作の映画)
3.9
イラン警察の麻薬撲滅チームのマサドは売人を捕まえて元締めの所在を吐かせるべく、麻薬常習者の一斉検挙や家宅捜索などを精力的に進めていく。苦労の甲斐あって元締めのナセル・ハグサドを追い詰める。ようやく収監されたハグサドだったが、仲間のネットワークを使い、留置場に居ながらマサドたちに対抗していく・・・

イランの麻薬汚染はイスラム原理主義国家の厳しい統制にも関わらず、相当に深刻であるらしく、『少女は夜明けに夢をみる』に登場の少女たちも薬物と麻薬に手を出すことがごく当たり前であるかのように考える人々が多いようです。
パーレビ時代以前の西側に染まった成熟した市民社会とイスラム革命後の厳しい倫理統制による閉塞感といったことが背景にあるのではないかと思わずには居られません。

1989年生まれの監督・脚本という若いクリエイターの手による本作は、こうした現在進行形の麻薬戦争といえる状況を粗削りなタッチで描いていきます。
全体に建付けの良い端正なつくりとは対極にあるぶっきらぼうな語り口なのですが、むしろそこがこの映画の魅力的なところ。

冒頭のガサ入れの場面の躍動感や、ホームレスの一斉検挙場面の群衆の様子、拘置所内での収容者の異様な熱気といった場面での演技らしからぬ異様な熱量の凄さ、人が怒鳴り合う場面の溢れんばかりのエネルギーといったところがこの映画の大きな見どころのひとつ。
我々が見慣れている警察VS麻薬組織という犯罪映画の構成からいくと、本作は前述のような躍動感溢れる場面の他は、尋問による罪の立証や、会話による主導権の奪い合いといった、むしろ静的といえる場面の多さが特異といえるところ。
物語の後半はハグサドの登場場面の方が多く、この男が組織の長として拘置所内での闘いの顛末を描くところに比重が大きくなっていきます。
基本的に会話劇が主体となる後半は、ハグサドの生い立ちが次第に浮き彫りになっていくところ、マサドとハグサドの丁々発止の言葉の応酬による闘いが、お互いに引けないギリギリの闘いとなってスクリーンにのめり込むのでした。

闘いが決着し、それぞれがエンディングに向けて身の振り方を決めていくところはこの骨太な男臭い物語に思いがけずエモーショナルな瞬間を生んでいるのでした。

邦題のジャスト6.5とは、イランにおける麻薬常習者が650万人=6.5millionだ、というところからきているようです。
ペルシャ語での会話なので、会話の中にジャストに相当する言葉があるのかどうか定かではありませんが、この数字が引き合いに出される会話の中に、マサドが身の振り方を決めることになる重要なカギが隠されているのでした。
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