平野レミゼラブル

悪なき殺人の平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

悪なき殺人(2019年製作の映画)
3.6
【おじさんとチャH!!!したら黒魔術師が儲かる。】
2019年の東京国際映画祭で観客賞を受賞した、ある女性失踪事件をあらゆる人物の視点から追っていく群像劇形式のサスペンス・スリラー。映画祭で上映されていた時の邦題は『動物だけが知っている』ですが、一般公開にあたって『悪なき殺人』へと改題されています。
ただ『動物だけが知っている』にしても『悪なき殺人』にしても、若干腑に落ちない部分はあるというか……別に動物視点であれば事件の全貌が解るワケではないし、そして確かに殺人に至るまでに「悪意」はないかもしれないけど「悪徳」は滅茶苦茶あったよね!?ってことでして……
ただ、もしかして動物って被害者や容疑者が飼ってる犬じゃなくてあっちの方の動物のことか?とか、純粋な想いであればそれはもしかして悪を超越した何かなのか?とか、色んな推測はできるんで、そういう意味では絶妙なタイトルなのかもしれない。

内容の方なんですけど、複数人の視点を組み合わせてみたら思わぬ真相が明らかに…系の作品であるってのは確かです。確かなんですが、その真相に辿り着くまでの道程がかなり独特で「えっ!?これ本当に本筋に関係あるの!?」って話が挿入されていくんですね。
むしろ冒頭で女性の悲鳴が上がった!殺人事件だな!!と思ったら鹿の鳴き声で、鹿を背負った黒人青年が自転車を走らせているという異様な光景が映る時点で既に「?????」ですからね……
以降はこの青年が出ることは全くなく、フランスの雪山地帯でエヴリーヌという女性が失踪した事件を中心に人間模様が語られていくので、あらゆる意味で物語が気になっていく。凄いOPです。

本筋の失踪事件を追うパートに入ってからはそれっぽい雰囲気になるんですよ。特に最初のちょっとイッちゃってる節のある農夫・ジョゼフと不倫をしているアリスという女性の視点は正にサスペンスです。
夫にも既にバレているものの、それでも世間体としても不倫関係を隠し続けるアリスが、エヴリーヌ失踪後にジョゼフ周りで違和感を覚えていく。もしや、ジョゼフが……いや、それ以上に旦那の様子もおかしいしジョゼフとの間で何かが起きた……?そんなアリスの疑心暗鬼は観客と一体化して盛り上げてくれます。
ところが、続いてのジョゼフ視点。そこで事件は一気に終点に辿り着いちゃうんですよね。あっあれ!?まだ1時間以上残ってるのに完全犯罪化しちゃったぞ!?しかも事件の真相は何一つ解明されてねェ!?
そして、次に始まるのがこれまで一度も出てこなかったウエイターの少女マリオン視点なんで気が狂う。

マリオン視点は年の差レズ不倫という本当にしょうもないようなお話でして、マジで何を見せられてるのか困惑するんですが、登場人物とか用意されていた伏線が引っ掛かり出して「おや?」と少しずつ物語がドライブしだします。
そして思わぬ形で先の2つのドラマと交差しだしたところで「あっあーッ!!」と納得を生んでいく。この超迂遠且つ周到な伏線回収が見事で、だんだんと真相に近づいていく感覚が面白い。
そして、いよいよ4人目で全てが判明するぜェーッ!!と特大の盛り上がりを迎えようとしたところで、舞台がアフリカに移って失踪事件とは縁も所縁もないような謎の人物視点になるので再び「ナンデ!?」となる盛大なハシゴの外しっぷり。でも、ここで冒頭の鹿を背負った青年の謎と、失踪事件の謎全てが解決してしまうんだから凄いです。ウルトラCの偶然が猛威を振るい出し、怒涛の真相究明になってしまうんだから思わずゲラゲラ笑ってしまう程に面白い…!
どういうことかっていうと「おじさんとチャH!!!したら黒魔術師が儲かる」ってことなんですよ。意味不明かもしれないけど、それが真相なんですよ。