こうん

SKIN/スキンのこうんのレビュー・感想・評価

SKIN/スキン(2019年製作の映画)
3.9
やくざの世界では入れ墨入れることを“がまん”というので、それ相当に痛いんだろうということは想像に難くなかったのですが、入れ墨除去がさらに痛いとは知りませんでしたし、レッテルとしてのタトゥーを暗喩としてもビジュアルとしてのモチーフとしても両輪で取り扱い、それを取り去ることの痛みと困難をそのまま直截に描いている…というのが本作のわかりやすいセールポイントであるし、魅力のひとつであると思う。

そしてそれが、5月のミネアポリスで起きたジョージ・フロイドさんの事件を起点に起きたBLM運動その他付随するムーブメントに並走するかのような“白人至上主義者の転向”の実話ベースの物語であるところから、興味を持ったのは事実であります。

で、初めて行った渋谷パルコのWHITEシネクイントで観てきました。
ま、2時間飽かずに観ることが出来た…という意味では面白かったです。

先に褒めておくと(という言い方がもうアレだ)、役者さんは全員良い。

主演のジェイミー・ベル(「リトル・ダンサー」を観たことがない人類のうちのひとりですおれは)も、「パティ・ケイクス」のダニエル・マクドナルドも、好きなビル・キャンプさんや、おれの中で“ハリウッドの木村多江改メ余貴美子”こと聖熟女ことヴェラ・ファーミガさんも、あと名前知らんけど三姉妹の少女たちもみんな良かったね。こんなハードな映画によく出たと思うし、俳優として真摯だし、この映画の美点でもあると思う。

ビル・キャンプさんは地味なんだけど、めちゃいい俳優さんだと思うんだよね。そんな彼のダークサイド演技が見られてよかったですよホントに。
ジェイミー・ベルも、善良そうな心根と邪悪バカな側面を行き来していて、この映画のテーマを体現する存在としてきちんと屹立していましたですよ。

しかしまぁ、この映画を観て思ったのは、映画としてブラッシュアップしてくれればよかったのに…という残念な気持ち。

悪口めいた言い方すれば、レイシスト団体から抜け出た男の実話、というところに依拠して一歩も動いていないと思いましたね。
この事実をフィクションとして映画にする際にどの程度のアダプテーションが行われたのかわかりませんが、事実に忠実であることが、必ずしも現実を映す鏡としての映画の強度を担保するわけではない、ということを如実に感じましたですね。

先に書いたように、本作ではタトゥーを直喩と暗喩の両輪で描いているけれども、そこに胡坐をかいて、なんちゅうか、単なる“カルト集団からの脱出”映画にしか見えなかったんですよね。
それが、今このタイミングで観るとなると、片手落ちに感じてしまう次第。それに関してはこの映画がタイミングいいんだか悪いんだか、という感じです。

作り手たちがこの物語の内包するものに対してどこまで射程を広げて表現しようとしていたか、それは出来上がった映画を見ればわかりますが、貴重な事実は伝わりますが、映画としては穏当すぎるのかもしれません。

しかしまぁ映画として、決してうまくはないなぁとも思いました。
ダニエル・マクドナルド扮するジュリーが、ブライオンが所属する白人至上主義者団体をどういう風に思っているかが不鮮明で、故にブライオンとジュリーが惹かれ合うのに垣根が低くて、なんだかなぁという感じでした。ジュリーがこのブライオンの生まれ変わりのドラマにどのようにメリハリをつけるのか、というのが作劇だしアダプテーションポイントだと思うんだけど、なんか飲み込みにくかったなぁ。
そこは俳優の魅力でカバーしているとは思うのだけど。

あとね、近距離の手持ちカメラの撮影がダメというわけじゃないんだけど、みんなその考え方採用しすぎじゃないか?

…とかなんとか不満を書き連ねてしまいましたが、一見の価値ありの一作であることは間違いないと思いますし、冒頭で描かれるレイシスト団体と反レイシスト団体の衝突は、まんま日本でも、例えば川崎でも起こっていたりして、海の向こうの他人事と思うのは大間違いであることだけは書いておきたいと思います。

なぜ“違う”だけの人々を非難し侮辱し攻撃できるのだろうと、その根源的な理由が僕には謎なんですけど、本作でバイキングの末裔であることを顕彰するレイシスト集団を見て、まだ“世界”が狭く“他者”が自分たちのコミュニティを脅かす存在でしかなかった時代から続く、怖れからくる潜在的な本能なのではないかと思いました。
だとすると、レイシズムというのは人間の内側の問題であるだけに…むー知恵熱が出てきました。
(アメリカのBLMはかつての奴隷制度に大きく起因するけど、ユダヤ人迫害の歴史や欧州を中心とした移民問題などは、そういうことなんじゃないかと思います)
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