現在89歳のクリント・イーストウッド監督による新作は1996年のアトランタ五輪の最中に起こった爆破事件を通して描く正義というシナリオを作るために手段を選ばない司法と印象操作を仕掛けるマスコミによって一人の英雄が潰されかけたことへの静かなる怒りを感じた良作。
イーストウッド監督は90代近くになった今も毎年のように新作をハイペースで出してるけど、「15時17分、パリ行き」や「運び屋」とチャレンジングな作品が続いている中で本作は久々にガチで良かった…これまでも主人公が外的要因で心を蝕まれていくイーストウッド映画は数多あったけど、マスコミや司法に対する疑問が強まってきた今の時代にちゃんとウケたものが出来た。
ポール・ウォルター・ハウザーやサム・ロックウェル、キャシー・ベイツの演技もとても良くて、人物像をちゃんと捉えていたと思う。
すごく良かった映画なんだけど、報道されているようにオリヴィア・ワイルド演じる女性記者の描写について実際は違うという批判が出てきている。他にも様々な脚色をしているというが、そこまでしてやりたかったことは？と考えると、主人公のリチャード・ジュエルに焦点を絞ったということであるのは明確。どう観たって記者だけでなく、FBIもかなりの悪者として描かれている。どれが真実かは分からない。でも、リチャードへの作られた非英雄像があったのは確かで、イーストウッド監督が本作(だけではなく近年の作品)を通して描かれているのは人々によって作られている英雄像、非英雄像への静かなる怒り。となると、悪者はどうしても出てしまうし、それがあったとしても上手く出来てると感じる。
これまでも、そして、これからも印象操作が横行するこの国もこの世界もこれは他人事じゃない。今の時代でも刺さる良作でした。
