ヨーク

ジャッリカットゥ 牛の怒りのヨークのレビュー・感想・評価

4.0
正直この映画は予告編が面白過ぎだろってのがあって長年の経験から思ってたのと違うパターンを3つくらいは想定しておいた方がいいな、と思いながら劇場へ行ったのだがその予想は大正解であった。
まずタイトルが『ジャッリカットゥ 牛の怒り』という分かるんだか分かんないんだかという感じなのであるが、ジャッリカットゥという語の意味は予告編を見てもサッパリ分からんとしても牛の怒りはよく分かる。逃げた水牛を捕まえるという単純なお話を提示した後はハイテンション牛追い祭りとでもいうべき様相が小気味よいカットで流れて90分のエクスタシーがどうのこうのという惹句も提起されるので何だかすごい狂乱の映画なのだろうという印象を受けるのだ。「インド版のマッドマックス」とかそんな宣伝文句もあった気がする。そういう大げさな煽りというのはマーケティングとしては大正解でも映画の内容とは離れている場合というのは往々にしてあるのでこれもどうかなぁ、と思っていたわけだがやっぱりそこまで単純な映画ではなかったと思うね。いや面白かったから別にいいんだけどさ。
だってまず映画の冒頭が黙示録の引用から始まるのでひたすらヒャッハー! な予告編とはいきなり温度差がある。ちゃんとした映画じゃん! ということである。褒めてますよ。んで予告編ではテンションマックスでノンストップの牛追い祭りじゃい! て感じなのだが実際には割と人間パートというか、牛が逃げ出したことによる責任の所在だとか牛を捕まえた名誉で名を上げるチャンスだとか、そんな思惑と欲望が入り混じってグダグダと内輪揉めするパートがメインなのだ。
とはいえ予告編の印象とはちょっとくらい違っても別につまらないわけではなくて、牛を捕まえるためにやって来る村の外からの助っ人(だがならず者)のクッタッチャンとかめちゃくちゃいいキャラしていて全く飽きることはない。タータタッタタッタッタ! 偉大なクッタッチャン! みたいな歌を取り巻きが合唱しながら村を練り歩くクッタッチャンとか何なんだよお前は感があって最高ですよ。偉大な、の箇所はただの空耳でホントは何て言ってるのか全然知らないけど。あと村人たちの衆愚的というかノリで右往左往して一貫性なく振り回されている感じとかは社会の縮図としての批評性とかもあるんだけどそういうグダグダさをずっと映されるので途中からはなんかむしろ牛の方に感情移入しちゃって、こんな人間共からは逃げ切って大自然の中で自由になってくれ! とか思っちゃいましたね。モ~! 放っといてよ~! という牛の心の声が聞こえてきそうでもあった。
ていうかそういう風な印象になるように冷静かつ意図的に作られている映画だと思いますよ。予告編で受ける狂乱の牛VS人間みたいなものだけではなくてもっと俯瞰的で醒めたクールな映画だと思う。なのでどこか人間を突き放した感があってそこが凄く神話や寓話めいていて良かったですねぇ。ただでさえ髭もじゃなインドのおっさんたちの顔なんて見分けがつかないのにラストの泥だらけのカオス的かつ修羅道的で祝祭なのか地獄なのか分からない有様はちょっと『蜘蛛の糸』とか連想しちゃって、あぁ何だかんだで綺麗にオチがついたなぁと思わせてしまうパワーがあるのである。
いやぁ面白かったすよ。めちゃくちゃな映画のように思えて凄く良く出来てる。でもカオティックな雰囲気はしっかり残っているという感じでしたね。まぁインドならこういうこともあるだろう、とか思ってしまうのもズルイ。
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