sanshoku

花束みたいな恋をしたのsanshokuのレビュー・感想・評価

花束みたいな恋をした(2021年製作の映画)
3.2
この映画を観ていると、自身の人生の中で一番濃密であったであろうここ5年のことをぽつぽつと思い出してしまう。
終電間際のあの感覚とか、麺の坊砦はあまり好みではなかったなーとか、BAYCAMPで崎山蒼志を聴いたなーとか、国立化科学博物館のミイラ展に行ったなーとか。ミイラ展に関して言えば、誘われて渋々行ったはずが、誘った方より楽しんでいた自信があったりする。なんとなく、結婚するなら博物館を同じペースで歩ける人なんじゃないかなと今更ながらふと思ったりする。
私にとってこの映画は、良いことも悪いことも一つ一つが愛おしく思い出されるような、そんな映画だった気がする。

ただ、なんとなく感情移入しにくい映画でもあったと思う。
仕事という責任に時間を奪われ摩耗し、好きなものから徐々に心が離れ行く麦。視野もどんどん狭くなっていき、何のために働いているのかすらも分からなくなる。もはや形だけになってしまった好きだったものを目の前に、泥沼から抜け出せないでいる、そんな彼の姿が理解できないわけではないし、自身にもそういった経験があったりする。
けれども、やはり冒頭で結末が分かってしまっていることもあってか、「どの様にして二人は結末へと向かったのか」が淡々と現実的に綴られているように思えてしまって、どうしてもストーリーが結末へ向けた終わり方をするために組まれたロジックのように感じてしまった。
学生から社会人になって、こうなればそうなるよね、みたいなものの繰り返しで、その一つ一つを解決するために深くお互いに踏み込むこともなく、どこか言葉足らずの二人の生活は続いていく。もっとあるでしょ、こう、なんとういうかさ、それは違うじゃん、ダメだって、みたいな客観的な感情だけが渦巻いていく。現状維持すらままならなくなってきているのに、現状維持に拘ってしまう。人の変化には気付けるのに、案外自分の変化には疎かったりする。あー、なんであんな終わり方をしてしまったんだ、何から何まで同じな二人が出会えたはずなのに、もっとちゃんと話し合っていればこんなことにはならなかったんじゃないのか、そう思ってしまう。

花束という割にはありふれていて、憧れや羨ましさみたいなものはあまり感じられなかったけど、確かに当人からしてみれば、この5年間は花束みたいに優しくて愛おしい、そんな特別になったのかもしれない。きっと、そういうものなんだと思う。
sanshoku

sanshoku