シズヲ

カモン カモンのシズヲのレビュー・感想・評価

カモン カモン(2021年製作の映画)
3.7
叔父と甥の共同生活から始まる物語。自己と他者。親と子。内面の見えない“他の誰か”との交流と理解、その模索と葛藤。そんな人生の“不可逆性”と向き合う人々の姿。インタビューを介して語られる見解と価値観は、子供達なりに現状と向き合った上での“答え”と言うべきもので印象深い。

ホアキン・フェニックス、ウディ・ノーマン、ギャビー・ホフマン、主役と言える三人の生々しく自然な演技が秀逸。彼らが向き合う“問答”には確かな心が宿っていた。“子供を見守る親”のロールプレイ、その中で見えてくる“母親が背負わされる責務”などの要素からは『クレイマー、クレイマー』を連想させられる。役者の存在感という点で主演と子役が対等な辺りにも近い部分を感じる。白黒の映像はそこまで効果的には感じなかったけれど、まぁ多少のムードは感じられる。

例え家族と言えども、自分以外は“心の読めない他者”である。それ故にすれ違い、理解し合えず、時に苦悶や不安を抱えていく。生きることは未知で溢れている。しかしそれでも前に進むしかない。言葉を通じて想いを伝えるしかない。その果てに歩み寄れることだってある。そして他者と真っ直ぐに結びつくことが自己を省みることにも繋がる。自分と他者の断絶を描きつつも、そんな人間関係に対する希望を見出すような向き合い方には確かな慈しさがある。叔父と甥の交流そのものに味わいを感じてくる。

テーマを語る上で“意思を発信”するインタビューが重要なウェイトを占めているのは分かるけど、エンドロールまで延々と繰り返されるのはちょっと喋らせ過ぎな印象はある。風情に欠けるというか、もう少し主役二人に対する余韻に浸らせてほしかった。また作中のテーマを掘り下げるために映画全体も些か饒舌になっているきらいは否めない。とはいえラストの着地点も含めて十分に良い作品ではあったのだなあ。
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