銀色のファクシミリ

サイレント・トーキョーの銀色のファクシミリのネタバレレビュー・内容・結末

サイレント・トーキョー(2020年製作の映画)
2.8

このレビューはネタバレを含みます

『#サイレント・トーキョー』(2020/日)
劇場にて。原作未読。賛否でいえば、否寄り。良い所も多いのですが、物語に詰め込み過ぎの部分と足らない部分がそれぞれあって、全体的に中途半端になってしまった印象。そして主題がやや古め。2020年公開だからこそ感じてしまう違和感もありました。

あらすじなしで感想。見どころはなにより渋谷駅前の再現の素晴らしさ。このリアルさがあるから劇中の大事件もまた説得力を持つ。日本でもこれほどの技術と、演技力のあるエキストラを動員できるバジェットがあるのかと素直に感動しました。

見どころの次は聞きどころ。全編に渡り、迫力と緊迫感のある音楽があてられています。担当は大間々昂氏。過去作は『愚行録』『彼女がその名を知らない鳥たち』『見えない目撃者』『ひとよ』『宇宙でいちばんあかるい屋根』と力作や傑作目白押し。実は鑑賞の最大動機でした。ちなみに新作は『樹海村』。

見どころはまだあるのですが、それは少し先で触れるとして。難点として挙げられるのが提示される謎の多さ。なにも説明せず、なにも明らかにならないままで謎をどんどん並べられても、それは物語を牽引しないと思っています。ただでさえ核たる主役不在のこの映画で、なにを見ていいのか分からなくなる。

さらに一向に分からない登場人物のあれこれについて、徐々に「説明されない」ではなく「今は説明できない」だと気づいてしまい、「脚本の練りの不足」と「事件の真相」の両方を感じてしまう。加えて警察が真相に迫るキッカケ、その人物の動機と行動も原作を確認したくなるくらいのものでした。

それでもこの物語を最後まで観ていられるのは、音楽の力と大きな見どころのキャスト陣の演技力と存在感あってこそ。ベテラン勢はもちろん、とりわけ中村倫也。寡黙な佇まいの中に、相反する人間の多面性を見せ、彼の言動と抱える心情が最後まで物語を牽引する。2020年を代表する俳優さんたるの活躍。

でも肝心の主題については、やや古さを感じました。昨夜帰宅して最初に確認したのは原作の発表年。「日本人の平和ボケを問う」という、この作品の発表年が2019年なのは軽く驚き。鑑賞中に1993年公開の某アニメ映画を思い出したくらいだったので。

メディアが情報を寡占していた20年前と現在の状況は変化していると思いますし、日本の安全保障の問題も変化している。なにより2020年のコロナ禍での渋谷駅前のハロウィンの鎮静化が、諸条件あるとはいえ、この映画の中の渋谷駅前の騒動をやや絵空事にした感は否めない。

また現在を舞台とし、テレビ報道を用いながらSNSの反響を物語内で描かない片手落ち感。犯人の動機と目的、その主張もリンクしているとは到底いえず、諸々の脚本の甘さもあって、かなり消化不良。ただある一点、ここは真実を描いていると感じた点は、ふせったーで書きます。とりあえず感想オシマイ。

追記。中村倫也と並んで目を引いたキャストは白石聖。陰のある女優さんじゃないのに責任なく不幸な境遇に落ちていく役のはまり具合はドラマ「恐怖新聞」そのままでした。あと芋生悠がちょっとだけ出てます。かなり冒頭の1シーンと声だけでもう1シーン。気づいた自分を褒めてあげたい。追記もオシマイ。

『#サイレントトーキョー』ネタバレ感想。
この映画が隠さず描いたのは「日本人の平和ボケ」以上に「日本のマスメディアの平和ボケ」だったのじゃないかなという話。

この映画の中のテレビ局は本当に酷いものでした。なによりKXテレビ。

自社の取材カメラマンが事件の被害者となり、同行していた契約社員は行方不明。そしてその行方不明の契約社員が犯行声明の公開動画に犯人として登場する。原作はどうなっているか分かりませんが、この事象についてのKXテレビ局と番組制作陣のリアクションは描かれないのです。彼らは気づいていただろうに警察に知らせていないのは明らか。釈放後に彼の独占インタビューなど公開すれば世間から袋だたきだと思います。まあ、これは脚本の甘さもあると思うのですが。

日本のマスメディアの平和ボケと感じたのは、渋谷駅前爆破後の総理大臣インタビュー。爆破テロリスト側の主張に組みするように「テロリストと対話を選べば爆破はなかった」と総理大臣を責める。そして独占インタビューの台本でも「総理大臣を責めろ」と、ことさら演出をつけている場面が描かれる。

ジャーナリストでありながら、取材で事件の真相や警察の対応を精査する前に、もうこの事件を「政権批判の道具」として、ただただ「消費」しているわけです。コロナ禍でも理性的な報道をしているのか疑わしい、煽るような見出しを見る中で平和ボケしているのは日本人ではなく、昭和の頃から変わらないマスメディアじゃないのかなあと感じた次第でした。ふせったーもオシマイ。