劇場公開されるブラジル映画はそう多くないけれど、お国柄なのか登場人物の多くが息をするように挨拶と感謝を欠かさないのがなんとも素敵で、観ていてすごくいい気分になれます。「チャオ」も「オブリガード」も響きがかわいい、若者も老人もそれぞれ違った聞こえ方があって愛らしい。そこには各々が相手に欠けたものを補おうとする慈しみのようなものも感じられます。
老いから光を失いつつある主人公、そこに現れる孫ほど歳の離れた若者。彼女の見てくれが、用心深い老人ならまず近寄らないであろう刺青ピアスのならず者感に満ちているのが示唆的です。本来であればまず交わらないはずの、年齢も境遇も文化圏も異なる二人が、視覚から来る先入観を欠いたことにより心を通わせるきっかけを得る。この導入部が丁寧に描かれることで、その後のテンポがやや良すぎるようにさえ感じられました。
主人公は身体のあちこちにガタが来ているとは言え、視力を除けばまだまだ元気で頭もはっきりしています。素性の知れない若い娘に寄りかかるようなそぶりは見せず、騙し合いのような心理戦にさえ興じてみせるし、詩のボクシング的催しに無茶振りで担ぎ出されれば故郷の詩人を誦じてみせるし、何なら65年前のロマンスだって鮮明に思い出せる。78歳、めちゃ元気だな…と思ってたら最後はそう来るか、というある意味納得のエンディングでした。果たしてそんなにもろもろ上手く行くもんかな?とはちょっとだけ思わないこともないけど、本当にああなれるなら万事最高にハッピーだと思う。