Growltiger

キンキーブーツのGrowltigerのレビュー・感想・評価

キンキーブーツ(2018年製作の映画)
5.0
父親が急死し倒産寸前の靴工場の跡取りとなったチャーリー。
ドラァグ・クイーンのローラ達と出会い、彼女達が必要とする丈夫でぶっとんだブーツ(キンキーブーツ )を作る事で工場を救おうと立ち上がる。

2005年の同名映画が舞台ミュージカル化され、ブロードウェイに進出後、ミュージカル界の名誉ある賞、トニー賞で13部門にノミネート6部門受賞という快挙を成し遂げた今作。
そのミュージカルを映像におさめた作品になります。

素晴らしい作品でした!!
※故に、レビュー長いっす


靴工場を立て直すって結構地味なストーリーがドラァグ・クイーンと合わさる事で凄いエンターテイメントになりますね。
ボクシングの決闘もエンジェルズ(ドラァグ・クイーン達)によって盛り上がる。
あの美脚を活かしたリングの演出!好きだな〜。
こういう演出が舞台作品の楽しい所なんですよね。
エンジェルズの方々はみんな普段からドラァグ・クイーンなさってるの?ってくらい綺麗で、ブーツ映えする美脚でした。

基の映画よりもかなりコメディー寄りにして笑わせてくれますが、自分らしい生き方とか、父親へのコンプレックスとか、重要なテーマはそのままに、心に響く名作に仕上げてくれました。

ラストに歌われるRaise You Up/Just Beは落ち込んでる時に聴けば立ち直らせてくれる事間違いなし!


今作の楽曲は歌手で女優のシンディ・ローパーが作詞作曲したそうですが、ミュージカルの命である歌が全体的にとても良かったです。
どの曲も聴いてて耳に残ります。それぞれ語ると長くなるのでここで推したい曲は
・Not My Father's Son
・Soul of a Man

Not My Father's Son
ローラの父親への想いを歌った切ない曲。
ローラ役のマット・ヘンリーの感情のこもった歌い方に貰い泣きしてしまいました。
「私は父の(理想の)息子じゃない」と言うローラの歌詞がなんとも切ない。
ローラって底抜けに明るいようで、実は父との確執に苦しみ自分の弱さも自覚している繊細な人なんですね。どれだけ辛い想いをしてきたのだろう...。
そしてチャーリーも一度は家業を捨て父を失望させ、そのまま父と死別してしまった後悔から「僕は父の(理想の)息子じゃない」と一緒に歌う姿に涙がこみ上げました。
実は似た者同士の2人の距離が縮まるこの場面は名シーンです。

Soul of a Man
チャーリー熱唱。実はこの曲でも泣きました。
まずチャーリー役のキリアン・ドネリーの歌声が素晴らしい。
そして自分のやりたい事が何なのか分からず、周りに流されてきたチャーリー。
ローラに酷い事を言ってしまったり、焦りから従業員にも態度を悪くしてしまったり、自分の器の小ささを自覚して「僕は憧れたような立派な男になんてなれないんだ」と悩む葛藤が曲に込められています。
解釈の仕方なんでしょうがここでチャーリーが指すSoul of a Man って歌詞を見ると父親の事のようにも思えます(「見上げていた人」と言う部分や店の看板に向かっている辺りとか)。
そうするとNot My Father's Sonからも繋がってより切ないですね。

最後はキャストについて

マット・ヘンリー(ローラ/サイモン役)
最初結構ゴツいなって思いましたが、プロボクサーの父に仕込まれたって設定も納得。
歌の上手さは勿論、表情や動作の笑いのセンスが本当に良い。
散々笑わせてくれておいて、前述したNot My Father's Sonでのシリアスな感情の入り方が凄いです。
最後チャーリー役の人も涙拭ってたけどガチ泣きだったんじゃないでしょうか。

キリアン・ドネリー(チャーリー役)
実は色々なミュージカルで主役やってる凄い方なんですね。
良い声でファンになりました。
過去のチャーリー役では髭剃ってた時もあったようですが、今回髭生やしてるのも“垢抜けないチャーリー感”があって良いですね。
※褒めてます。
実はチャーリーってほぼ舞台に出ずっぱりでかなり大変な役だと思いますが素晴らしいチャーリーでした。

ナタリー・マックイーン(ローレン役)
チャーリーに恋するちょっとキンキーな女、ローレン。
チャーリーへの恋心を歌ったThe History of Wrong Guysでは笑わせて貰いました。可愛い声なのでもっと歌って欲しいくらい。
ローレン役ってやり過ぎると下品なだけだけど弾けないとつまらないし、凄く難しい役ですね。

粗野な従業員ドン(ショーン・ニーダム)やお茶目な工場長ジョージ(アントニー・リード)など、脇を固める方々も素晴らしかったです。