平野レミゼラブル

藍に響けの平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

藍に響け(2021年製作の映画)
2.6
【テンポ良く響かされる和太鼓に反して物語が全く響かず】
予告映像で流れたミッション系お嬢様学校での和太鼓部という一見ミスマッチな取り合わせや、女の子同士の百合百合しい雰囲気に惹かれての観賞。
すたひろ先生による原作漫画『和太鼓†ガールズ』は未読だったのですが、まあまず青春音楽モノってジャンルで大きく外すってことがあまりありませんしね。そこら辺は結構な期待値を込めて観に行ったんですが……

……な~んかやけに話がブツ切りだな!?
確かに話の合間で演奏される和太鼓は良いですし、女の子も可愛いんですが、話の繋がりや登場人物の背景や関係性が見えてくることが全くなく、鳴らされる太鼓のリズミカルなテンポに反して話のテンポが狂いまくっています。
何らかの伏線・布石と思われた行動や描写が、その次のシーンでは雲散霧消していたり、風呂敷を広げたのに広げたことすら忘れて話が突き進んでいくような出来事が頻発。そのため、ちっとも話にメリハリがなく、なんでこんなことになっているのかさっぱりわからないという有り様に。

これ、原作漫画の話を無理矢理映画尺に合わせて編集しているからかなって思ったんですが、wiki先生を見るにそもそも原作とほぼ別物になっているためそういうワケでもないという……
舞台となるのがミッション校で、主人公の環を和太鼓の世界に導くマリアが唖者のシスターという設定のみが原作と共通で、それ以外はただ原作から名前を借りただけレベルに異なるキャラクター達が目白押し。映画はオリジナルストーリーとしてイチから再構築しているにも関わらず、全体的にしっちゃかめっちゃかなのです。

大きく改変したとしても、映画として面白ければ別に良いくらいには思うんですが、環を「名家のお嬢様で優等生を無理して演じる女の子」から「父親が破産した影響で夢のバレェを諦め、周りのお嬢様とも馴染めなくなって不貞腐れている女の子」に変えたことで巧くいった部分が何一つなかったので困惑します。
なんか改変した要素一つひとつを活かそうとする描写はあるんですけど、全て活かしきれないままなあなあになってるんですよね……

例えば、環のキャラクターなんですが、前半と後半で全くサマ変わりしてしまっているのが凄く不可解です。
最初の方は引っ込み思案で全然和太鼓をやるのも乗り気じゃないんですが、いざ入部してからしばらく経つと「全国大会目指さなきゃやる意味がない!」とやけに意識が高くなっているという。元々バレェに打ち込んでいただけに、いざハマれば意識高くなるってことではあるんでしょうけど、それにしたって突然入部した初心者がスパルタ教師を引っ張ってくることに躍起になったり、「やる気がないなら辞めたら?」と元の部員に冷たく言い放つサマは違和感しかない。
そもそも環自身が和太鼓初心者の頃に「入部したのに太鼓も叩かせないで基礎練習だけなんて嫌がらせか!」って部をサボタージュしていたため「お前がやる気の話をするか…」って感じなんですよね……そのため、環の印象は終始最悪のまま突き進むという。なんかこの主人公を好きになれる要素が微塵もなかったのは辛い。

他の部員のキャラクターも疑問符がつく行動が多く、例えば和太鼓部部長の寿は最初和太鼓に興味がない態度を取っていた環の入部を頑なに認めたがらず「30分間の和太鼓叩き耐久勝負に勝てたら入部を認める」という条件を出しますが「素人相手になんでこんなマウント勝負を…?」という悪印象が凄いです。
まあ前述通り環の態度は終始悪いので、入部断りたくなる気持ちはわかるし、根性を試そうという思惑は何となく察せられますが「そこまでするか?」って感情の方が大きくなるんですよね。要は説得力が全然積み重ねられていない。オマケに当然環は敗北するんですが、なし崩し的に入部するので、この勝負自体なんの意味があったのかわからないという……

これらの違和感も要素だけ抜き出せばスポ根漫画のお約束ではあるんですよね。そりゃ、この手の青春モノは山あり谷ありにしてなんぼでしょうけど、本作に限ってはそこに物語的な必然性はなく、とりあえずそれっぽくするためだけに挿入した感覚が否めません。
後半では意識高い系の環が突っ走ったせいで演奏を失敗したり、そのとばっちりで環を連れてきたマリアが責められたり(可哀想)、環がマリアの声が出ないのは「努力不足じゃないの?」と詰め寄ったり(非道)で部全体がギスギスしだしますが、そんな展開にする必然性を全く見出せないので不快感しかないという。というかほとんど環が原因じゃねーか!!なんなんだあの女!!

それ以外にも親に内緒でバイトしていた環や、和太鼓部顧問になるシスターニッチェと寿の父親とのかつての関係、寿の兄で和太鼓チームのエース司と環やマリアの三角関係っぽい何かなど、ドラマを盛り上げそうな要素はいっぱいあるのに、全てよくわからないまま話が進むのも消化不良。原作を大幅に改変した以上、その改変点を活かさなければ意味がない気がするんですがそれは……
シスターニッチェが顧問になった途端に、衣装が『女王の教室』の天海祐希みたくなったのはちょっとフフフとなったけど、これもまあ「それっぽくするためだけ」の演出の一環ではあるんですよね……冒頭や要所要所で映す浜辺の波や、金沢の和太鼓祭りなどはアート系っぽく印象付けて撮っているのに、その他は全体的に手垢がつきまくった演出や展開なので全体的な統一感も欠けていました。

ただ、最後の和太鼓の演奏は一切の吹替なし、演者全員の猛練習で完成させた一大パフォーマンスなので迫力があります。なので、演者の頑張りは物凄く評価できるし、演奏自体もとても良い出来なのですが、いかんせんこの演奏で本来肉付けされるべき物語が崩壊してしまっているというのが勿体ない。でも、この最後の演奏がなければ本作の評価はより厳しいものになっていたかな……