銀色のファクシミリ

星の子の銀色のファクシミリのネタバレレビュー・内容・結末

星の子(2020年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

『#星の子』(2020/日)
劇場にて。原作未読。「温かい」とか「哀しい」とか一つの形容詞では云い表せない愛情の物語。あれも子を思う愛情ゆえだろうし、これも親を思う子の愛情ゆえだろうと思えました。そして、こういう描き方もあるのかと感じた、少し変わった成長譚でもありました。

あらすじなしで感想。主人公ちひろ(芦田愛菜)がまだ赤子の頃、彼女の両親のエピソードが冒頭にあり、長じて中学3年生になった現在のちひろと、少し前の小学生時代の彼女と家族が交錯して描かれる。この構成で浮き上がるのは、家族の変化と主人公の自我の芽生え。

疎遠になった姉、引っ越した家、団体の友達。そして中学校生活。学校での日常、家とは違う外の世界の中に身を置くことで生まれた、悪い人だとウワサで聞く人々への疑念、そして自分の家庭への違和感。

そして、その違和感が現実のものと思い知らされる場面。ちひろの隣に座る人が、あるものをカウントするだけなのですが、逃げ出したくなるくらい辛い。このセリフには今年観た映画のどのセリフよりもショックを受けました。仰々しい悲壮な音楽もなく、ちひろの無言の表情で伝える衝撃。

嫌悪を感じながらも、そうなった理由も動機も、ちひろが知っているから生まれる深い葛藤。この苦しみを唯一共有できる姉の名を呼ぶのも痛々しかった。ちひろはついに、かつて姉が味わった苦しみを知った場面。「だから、あなたは」という心の叫び。

しかし衝撃のセリフからは、かつての姉の伯父へのある行動の理由を感じました。そして両親は、かつて娘を助けた「あれ」を姉妹への思いより上位に置くことはしていない。ともに理屈抜きの肉親への情愛なんだと思います。つけ加えれば、伯父一家のそれも。

最後の3人の会話と行動にどういう意味を見出すか。その解釈で「あなたの中での結末を見つけてください」という大森立祠監督らしい作品だと思えました。ここでそれは語れませんが、どう転がるのか分からない展開と併せて映画館で観て良かったです。感想オシマイ。

追記。いわゆる子役演技から完全に脱して、現実感と物語感を9:1、等身大の中学生を自然に演じた芦田愛菜はさすがと云うべきか。『世界のいちばんあかるい屋根』で、現実感と寓話感を7:3で、中学生を演じた清原果耶との対比も面白かったです。追記もオシマイ。


『#星の子』ネタバレ感想。衝撃のセリフと謎多きラストシーンについて。
自分の親を「一匹、二匹」なんて数えられたら、もう血を見なければ収まらない(定型表現だけど、血を見た状態はそもそも収まったといえるのだろうか)でしょ。しかも好きな人の口からそれを聞いて、漠然と感じていた自分の家庭への違和感を深刻なリアルだと思い知らされた、ちひろの心中いかばかりか。しかも両親がカルトに傾倒したのは、赤子だった自分に「奇跡の水」が効いたからというのを知っているから、自分まで責める分、辛さが増して本当に可哀想だった。そして家に帰ったら、余りもののパック寿司が出てきて、頭にあの水掛けられるし。

でもこの衝撃のセリフが「親を第三者に馬鹿にされたり、責められたるするのは、理屈を超えてイヤなものだ」ということをはっきりさせた説明になっていて、中盤の姉(まーちゃん)が、伯父さんのあの仕業に対してナイフを向けた理由になっていると思えました。

そしてこの映画の色んなことを示唆しているような感じで終わっていくラスト、観た人それぞれに解釈が違うと思うですが、自分はこう見ました。

・両親に会おうと施設内を探し回って、両親も自分を探しているのに、どこに行ってもまったく会えない。でも自分の部屋で待っていると母は迎えに来た。

→ちひろはまだ親離れできておらず、また伯父一家に語ったように、色々と分かってはいるが両親と一緒にいることを選んでいる。そして自分が同じ場所から移動しない(=考えを変えなければ)と両親と一緒にいられる。

・親子3人で流れ星を見ようとするが、寒くてあれこれ集中できず、なかなか3人揃って流れ星が見えない。

→風邪を引くかもという3人のやりとりから「奇跡の水はインチキで、両親も実は心の底ではそう感じている」。

→姉の近況についての会話から「両親から離れても、そこにも幸せはあるし、また両親は団体の教えよりも自分たちの子供二人の幸せを優先上位に置いている」。教団の教えを信じろ、出来ないお前は嘆かわしい、みたいなことを両親は云わないんですよね。娘を救ってくれたからという入信理由からきていると思います。

→両親は同じ流れ星を見られるのに、ちひろは見られない。ちひろが見た流れ星を両親は見られない。3人一緒にいても、両親の幸せとちひろの幸せは別のところにある、いつかちひろは独り立ちするだろうという示唆。

ということかな、と思いますよ。知らんけど。

#2020年下半期ベスト映画・ベスト悪役
二人のうちの一人目、『#星の子』のアイツ。時々悪役やる俳優さんだけど、必ずこの映画のようなタイプの悪役なんですよね。見た目が良いだけに頭の良くない発言が「こんな人だったのか」と深い失望を生む。俳優さんとしては名演という事なんですけど。