小

さよならテレビの小のレビュー・感想・評価

さよならテレビ(2019年製作の映画)
4.0
明けましておめでとうございます。そして、ご無沙汰しております。心がカサカサになっていたため映画を観る本数は半減し、感想文も書かずにいましたが、新しい年になったし、休みの長いので久々に書いてみようかと。

数多くのドキュメンタリー映画の名作を生み出した東海テレビ、その中でも人気作の『ホームレス理事長』『ヤクザと憲法』の圡方宏史監督が自社の報道部内部にカメラを入れた作品ということで初日に観てきた。そもそも、テレビ放送の段階でネットで話題になっていたので映画化を心待ちにしていた。で、感想はというと…。

まず、期待したほどではなかった。原因は取材対象が東海テレビだったということだろう。舞台挨拶で圡方監督が「視聴者が求めているであろう"マスゴミ"的要素を撮ろうと粘って、なんとか撮ったのが共謀罪の件くらい」「中央の政治家との関係がないので"忖度"とは縁遠い」というような趣旨のことを話していたけれど、これに尽きると思う。

つまり某国営放送や全国ネットの民法キー局に比べ、政治権力との距離がかなり離れているため、権力の監視が使命のジャーナリストのくせに屈するとは何事だ的な、一般人の琴線にビリビリと触れるような"マスゴミ"ファクツがないのだろうと思う。共謀罪の件だって、単にフジ山系のテレビ局だからに過ぎず、東海テレビ自身に葛藤はないだろう。

でも、よくできたドキュメンタリーだと思う。自分的大きな評価ポイントの一つである「人が描けていること」がとても良くできていたと思うから。

政治権力と対峙する機会も、その気もないであろう東海テレビ報道部の悩みは、働き方改革という逆境の中で、放送事故を起こさず、少しでも高い視聴率を獲得するという、普通の会社と同じサラリーマン的なこと。

こうした状況下で、過去の放送事故で心に傷を負ったアナウンサー、50歳にしてジャーナリストの正論を拠りどころにする契約社員、いかにも要領が悪そうな若い派遣社員の3人の人物像が面白く(特に派遣社員)、また、上手く映し出されていた。

ラストの某ドキュメンタリー映画監督のアノ映画のような、人を食ったようなオチもなかなか面白い。ここに至るまでの流れもあって、テレビ放送(見てないけど)とは全く違う印象になる気がする。

ストーリー構成のためとはいえ、現場の偉い人を悪者にして3人の弱者を引き立てる編集は、出世が無上の喜びであるような人には絶対できないだろうけれど、東海テレビってそうではない人達がドキュメンタリー制作に携わっているらしい。そうである間は、東海テレビのドキュメンタリー映画を見続けなければと思うけれど、いつまで続くかが心配。
小