カツマ

プロミシング・ヤング・ウーマンのカツマのレビュー・感想・評価

4.3
哀しみは怒号のように降り積もる。抑圧されたそれは激しい憎しみへと変わり、研ぎ澄まされた刃を向ける。それは約束されし感情、その怒りはあまりにも必然。何しろ断罪されるべき対象は、ヌクヌクと普通人のような顔をして逃げ続けているのだから。これは声ならぬ声、慟哭のような叫び。遅すぎるくらいには、今の時代に表現されるべき映画なのは間違いなかった。

今年のアカデミー賞の脚本賞を受賞した話題作が、他のオスカーノミネート作品からやや遅れたタイミングでようやく公開された。主演のキャリー・マリガンの演技が高く評価された本作は、エメラルド・フェネルの初監督作品であり、鮮烈なメッセージを突き付けることを映画という媒体で見事に表現してみせた作品だ。加害者としての男性、被害者としての女性、その構図をクッキリと描き出し、悲劇的な事件を繰り返させることに真っ向からノーを宣言、そのメッセージは受け取る側へと委ねられた。

〜あらすじ〜

夜も深くなったBAR。そこでは会社帰りとおぼしき3人組の男が何やら談笑している。彼らはソファーの上の泥酔している女性を見て、誰が彼女に声をかけるかを話しているのだ。当たり前のようにその中の一人が声をかけに行き、そして、タクシーで送るフリをして、自宅に連れ込み、事へと及ぼうとした。だが、そのタイミングでその女性は睨みを効かせ男に問うた。『何をしてやがんだ?』と。
その女性の名はカサンドラ・トーマス(愛称キャシー)。彼女は元々は優秀な医大生だったが、ある事件を境に医学から遠ざかり、今はコーヒーショップでマイペースに働いていた。結婚はせず彼氏もいないが、彼女はその必要性を感じてもいない。それでも美しい彼女に惹かれて男どもは近寄ってきては、自宅に連れ込もうとし、男の性を押し付けようとする。そんな男どもを彼女は敢えて引き寄せ、そして、復讐のように怒りを滾らせ続けていた。
そんな彼女の前に医大で同期だったライアンが現れる。彼は未だにかつての医大仲間と縁があるらしく、その話を聞いたキャシーはとある人物の現状を知り、激しい怒りを燃やすのであった。

〜見どころと感想〜

強烈な啓発映画としての機能を内蔵した、怒りと哀しみが所狭しと詰め込まれたかのような作品だ。完全なる犯罪でありながら、それを逃れて強権を振りかざす男たち。本来ならばそんな奴らに下されるべき罰がここにはあり、過激な表現方法ながら全くやり過ぎとは思わない。この映画を見た男性たちが、女性たちの激しい憤りを少しでも鑑賞することができたなら、今作の意義深さは今後、更に増していくことだろう。

主演のキャリー・マリガンはキャリア屈指の体当たりの熱演で、屈折した役どころを見事に演じ抜き、この映画の屋台骨を支えている。コメディアンとしても活動するボー・バーナムは、『エイス・グレード』で映画監督を務めたりなど多彩な人物だが、今作では人の良さそうな小児科医という役柄、物語の鍵を握る人物として登場している。他にも『ディザスター・アーティスト』のアリソン・ブリー、『スパイダーマン2』のドック・オク役でお馴染みのアルフレッド・モリーナなど脇を固める陣容も厚い。

この映画は相当にダイレクトな表現方法を用いているが、メッセージを伝えることに全フリしている側面があり、結果としてその効果は抜群であると言えよう。一部の女性は一部の男性に怒りを覚えるだろうし、またその逆に一部の男性の自己啓発的なスイッチとしての機能も同梱する。

他にも、例えばステラ・ドネリーが歌詞中で歌ったような、悲劇の痕跡を消させんとする炎を轟々と燃やしていて、絶対にその火を焚べ続けるのだ、という宣誓とも取れるのだ。それだけに今作はもっと多くの人たちに見られるべきだし、そのメッセージはまだまだ拡散されるべき義務を背負っているのだろう。

〜あとがき〜

オスカーで脚本賞を受賞したのも納得の強烈な啓発映画で、それでいてサスペンス性もあるため、エンタメ度も強い作品となっています。ストーリーが読みやすかったり、初監督作品としての粗さはあれど、この主題を貫き通した手腕には監督の今後が楽しみになる作品でもありました。

こういった作品が世に放たれなくてはならない歯痒さ、哀しさ。それらを噛み締めつつ、この映画を見ておいて良かったと強く思うことができましたね。
カツマ

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