平野レミゼラブル

G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズの平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

3.2
【忍の心を失った日本人に今こそ「忍者らしさ」を問う】
公式キャッチコピー「未曽有の忍者テロを阻止せよ!」
僕「未曽有の忍者テロってなんだよ」

公式がひたすらに「未曽有の忍者テロ」を推してきて、なんかもうなんでもかんでも「未曽有の忍者テロ」のせいにしておけば面白いんじゃないだろうかくらいの認識になっていた本作が遂に公開ですよ!
世界を裏から守護しているアメリカの兵士&ニンジャ集団『G.I.ジョー』の活躍を描いた新作及びリブート作品っぽいですが、本作単体で観てもなんら問題ない感じです。なんせ、その『G.I.ジョー』の一員であるスネークアイズの誕生を描いたオリジンにあたる作品みたいですからね。
僕の趣味嗜好を理解しているフォロワーの皆さんなら何となくお察しかとは思いますが、「ドB級アクション」「トンチキ日本」は僕の大好物であり、そのため『G.I.ジョー』に関する知識がなくとも、まずはともあれ観る!!って決めていた作品でもあります。

んで、いざ鑑賞前に吹替版のキャストとか確認の為に本作のWiki先生を見ていたら、批評家の評価欄で「忍者らしさに欠ける作品」とあって思わず噴き出してしまいました。

忍者らしさってなんだよ。

そもそもの「忍者」の定義が日本人からしてあやふやですよ。
僕にとっては「平安時代の日本をカラテによって支配した半神的存在」という認識でしたが、最近では「裏社会(ウラ)で悪事(わるさ)かますと来襲(く)る極道の天敵で真実偉大(マジパネ)ェくらいに生首(クビ)をブッ飛ばす存在」に変わってきたくらいですからね。
そして日本人にとっての忍者と、アメリカ人にとってのニンジャも全く違う存在となります。それこそアメリカ人は『ラストサムライ』で時代考証的に間違っているのはわかった上で、それでもどうしても出したいから!という理由でニンジャを出すくらいにニンジャが大好きですから。となると、アメリカ人にとっての「忍者らしさ」というのは、日本人の考えるそれよりも遥かに作品の根本を担う大事なファクターとなるのでしょう。
その辺りの認識の違いを考えながら本作を観賞すると、我々日本人が失ってしまった「忍者らしさ」や、謎の「未曽有の忍者テロ」の意味も自ずとわかってくる筈です。
そして、実際に観てきた上での僕の結論というのが………

忍者らしさってなんだよ。

未曽有の忍者テロってなんだよ。

……まあ、全くわからなかったよね!!
本作に出てくる悪い顔した平岳大こと鷹村ケンタは、出自こそ日本のアメリカ系忍者一族(アメリカ系忍者一族ってなんだよ)の「嵐影一族」なのですが、一族から放逐されてからはヤクザを率いているため、「未曽有の忍者テロ」というより「未曽有のヤクザテロ」です。
さらに言うとテロの内容というのも、自分を追放した嵐影への報復の為に一族が守護し強大な力を持つという「太陽の石」を奪うというものなので、終始身内に向いている。そのため「竹下通りに半グレ100人の生首を並べる」「新宿歌舞伎町を丸ごと崩落させる」「高速道路を3万台の極道車で暴走して20万人以上ブチ殺す」などの「未曽有のヤクザテロ」を見慣れている身からすると、テロの内容としても格落ち気味です。
忍者らしさについては、欠けているわけではないものの、終盤にとってつけたかのように突然「隠れ蓑術」や「煙玉」などを使うので、割とギリギリだった気はしなくもない。まあ当の日本人の抱く「忍者らしさ」が千差万別な以上、そこら辺は結構どうでも良いんですが。

そんな感じで、バカみたいな設定のオンパレードの割に、その設定が活かされるのが身内間に限られるので物凄くこぢんまりとした印象は否めません。
アクション班には『るろうに剣心』で知られるアクション監督の谷垣健治監督や、『ベイビーわるきゅーれ』の伊澤彩織ちゃんがスタント・パフォーマーとして参戦しているだけあって、中々見応えのあるスピーディーなチャンバラアクションとはなっているものの、要は彼らが参加している日本の作品で見慣れちゃったものばかりだから新鮮味はかなり薄いです。
普通に観る分には満足なんですが、こちとらトンデモ・ニンジャ・アクションとハードルガン上げで観に来ちゃってるので何か物足りないんですよ!!それこそバイクとポン刀合わせるなら『悪女/AKUJO』レベルのヤツが観たかった。
まあ、嵐影一族頭領の石田えりがヤクザを鉄扇で次々ブチ殺し、空中で何回転もしながら跳躍するアクションなんかはちょっと他じゃ観られないシロモノでしたけれども。

あと、根本的な部分で話がガタガタでして、命の恩人である主人公のスネークアイズに失敗したら命を落とす3つの試練に詳細伏せて参加させる嵐影一族とか参っちゃうね。いくら一族に迎え入れたいと言っても、命の恩人にやらせることじゃないよ……
肝心の試練についても、その全てがトンチやセイシンテキで解決するヤツなため、全く面白くもなんともないのもかなりどうかと思う。『ザ・レイド』のイコ・ウワイス連れてきてバトルで決着つかせないとか流石に拍子抜けどころの騒ぎじゃないよ!!

一応、後々に回収される伏線とか熱いリフレインとかの要素もあるんだけど、根本的な部分で主人公のスネークアイズ=サンが自分勝手すぎて全く物語に乗れなかったのも辛かった。
ヒロインのアキコ=サンはチョロすぎて心配になるし、頭領のセン=サンもアレだけのことされたのに甘すぎるし、トミー=サンはあんなになるしで登場人物全員割とどうかしている。
そのため、オリジンモノの醍醐味であるヒーローとして立ち上がる主人公像としても、宿敵との因縁の始まりとしても滅茶苦茶しょっぱいものとして映ってしまうため、続編とかにもあまり期待が持てないのが痛すぎる。
唯一、タケヒロ・ヒラ=サンは世界にそのインパクト抜群の悪い顔を知らしめて、これからハリウッドでじゃんじゃん悪い日本人代表としてやっていけるポテンシャルを示しましたが、なんだあの太陽石は!!あんなのに頼らずポン刀使え!!チャンバラしろ!!

とまあ、ストーリーに関してはあまり高く評価が出来ないのですが、トンチキ日本に関しては満面の笑みで100点満点上げたいくらいにトンチキで大満足だったので全て水に流します。
和太鼓パフォーマンスやサイケな芸者ダンスのイメージカットがフラッシュバックした直後に、富士山がめっちゃ近い「TOKYO」の空港に降り立った時点で爆笑しながら拍手喝采ですよ、こんなの。その後も渋谷のスクランブル交差点を横切った後に浅草寺を横切るどういうルート通ってんだか全くわからん地理関係にも笑うし、行き着いた先がTHE 城下町で、忍者が門番を務める城の中に黒塗りの車で入ってくるところとかもう待ち望んでいたトンチキ日本ぶりですよ!!
それ以前に、平岳大が「おこりんぼさんだな」って日本語で喋って滅茶苦茶格好良い書体で英訳が飛び出た時点で既に限界レベルに笑いを堪えてたし、その後にトラックにポン刀が刺さりまくって黒ひげ危機一発状態になったところで我慢できなくなってヒーヒー笑い転げてました。

もうこうなってくると、上記不満点は全てギャグと捉えることが可能となり、何もかもを許容してオッケーなんじゃないかとすら思います。
唯一の不満点とか予告で流れていた超カッケェー楽曲「STEALTH DIVE」がいつ流れるかワクワクしていたら、一切流れなかったところくらいになりましたからね。これEDにしないとか虚像(ウッソ)だろ、オイ!