うめまつ

マルジェラが語る“マルタン・マルジェラ”のうめまつのレビュー・感想・評価

4.0
マルジェラ本人が歴代のコレクションについて説明してくれるのでとてもわかりやすい。勝手な解釈が入る余地がないので、かなり解像度の高い理路整然としたドキュメンタリーになっていると思う。真っ白で統一されたアトリエも、棚に整理整頓された手書きボックスもあまりにもマルジェラで、子供の頃のハギレを使ったコラージュブックや、初めて作ったバービーの服なども出てきて宝の山だった。マルジェラの声でその生い立ちや作品を語ってもらえる悦び。

《ファッションそのものを解体し、その独創性で新しい時代を切り開いた謎多き異端者》みたいなパブリックイメージだけど、その理知的で落ち着いた語り口調からは、シャイで生真面目で繊細で純粋に服作りが好きな人、という印象を受ける。ブランドが認められる事を目指していたはずが、会社の規模が大きくなるにつれ弊害も増えて「(自分を)理解され過ぎて苦しむ」と言っていたのが印象的だった。当然肯定的な人しかインタビュー受けてないのだろうけど、元モデル達が「彼は私達をマネキンじゃなく人として扱ってくれた」という言葉には、ファッション業界の闇も垣間見えた。時代性もあるだろうけど、そんな当たり前の感覚を持つことが希少な世界なのだろうな。
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