タケオ

ミナリのタケオのレビュー・感想・評価

ミナリ(2020年製作の映画)
3.8
 監督のリー・アイザック・チョンが、自らの幼少期の思い出を元に制作した人間ドラマ。80年代にアメリカのアーカンソー州へと越してきた韓国系移民の一家が、荒れた土地での生活に苦労しながらも懸命に生きようとする姿を、繊細なタッチで描き出していく。
 リー・アイザック・チョンが敬虔なクリスチャンということもあり、「ヨブ記」や「ヤコブの泉」など全編の至るところに「キリスト教」に纏わるモチーフが散りばめられているが、その全てが決して-押し付けがましくない-というバランス感覚には好感が持てる。『スポットライト 世紀のスクープ』(15年)『魂のゆくえ』(17年)『ある少年の告白』(18年)など、近年では「キリスト教」のネガティブな側面にスポットを当てた作品が目立っていたが、少なくとも本作の中では、「キリスト教」は韓国とアメリカを——他者と他者を繋ぐ「架け橋」としてポジティブに機能している。本作『ミナリ』(20年)のことを、アンチ移民を掲げた第45代アメリカ合衆国大統領ドナルド・トランプに対するカウンターとして見ることもできるだろう。本国アメリカで、本作の主人公たちの姿に共感を覚える鑑賞者が続出したというのも頷ける。そもそもアメリカは移民国家なのだから。
 そして同時に本作は、「家族」という普遍的なテーマを扱った作品でもある。理不尽や不条理に満ちた社会の中で挫けそうになりながらも、静かに手を取り合って立ち上がる。そんな主人公一家の姿は、宗教や人種、国籍を問わず、多くの人々を勇気づけてくれるはずだ。
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