平野レミゼラブル

ゾッキの平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

ゾッキ(2021年製作の映画)
3.7
【異能の才たちが紡ぐ雑多にまとまった自由帳】
竹中直人!齋藤工!山田孝之!
どちらかというと「怪優」と呼称されることが多い異能の才を持つ俳優たちが、映画監督として集結。昨年公開されたアニメ映画『音楽』の原作者でもあり、その異能の才をして「孤高の天才」と称される大橋裕之先生の自費出版時代の作品をまとめた短編集『ゾッキA』・『ゾッキB』を実写化した作品となっています。

僕は1作も観たことはないんですが、竹中直人は映画監督としても何本も撮影して実績を残していますし、齋藤工に関しては初長編監督作の『blank 13』が中盤にコントのようなパートを入れながらも、削ぎ落しと寡黙な演出によって重厚感を漂わせていた風格が凄くて個人的に結構お気に入り。山田孝之も全裸監督となって数々の伝説的企画モノAVを……ってこれはドラマのお話でしたね!彼のみ監督初体験ですが、まあ経験豊富な他2人のサポートもあるわけですし、結構完成を楽しみにしていた作品でした。

因みにタイトルの『ゾッキ』というのは古本市場の業界用語で「ひとまとめ」を意味しており、不良在庫となった古本を一山いくらの捨て値で出すことを示します。当初は商業で世に出ることのなかった個々の作品群を、ひとまとめにして商業ベースに乗せたからこそ、この由来なんですね。
そのため、本作で描かれるエピソードというのは、それぞれ繋がりがない短編であり、それらを個性が際立ちまくった3人の監督が集まって紡ぎあった結果、どのような化学反応を起こしたのかというと……


これがですね、まあ各々個性丸出しで再編した結果、個性が尖りすぎてシュールでよくわからないことになりつつ、逆にその尖った個性によって奇跡的にバランスが取れているという珍品に仕上がっていました。
滅茶苦茶観心地は奇妙な感じだし、時にシュールすぎて理解が出来ないお話も混ざるし、「あっ、ここで終わるの!?」っていう肩透かし感もあるんだけれど、全体的な雰囲気としてはそのキテレツさで却って統一されてはいる。なんだろう…凄く説明はしづらいんだけど、感情としては「意味はわかんなかったけど何となく好き」ってとこに落ち着きます。うん、割と好きなんですよ。マジで。

主に原作から3つのエピソードを抜き出して主軸に沿えて、それぞれ竹中・齋藤・山田の3人が監督をしているんですが、その関連性のない3エピソードの間も同じく原作にある他の短編を使って穴埋めをして繋げていくって作りになっています。
大筋としては、山田監督の自分探しが嫌いな男・藤村がふと思い立って寝袋と道端で拾ったエロ本を持って自転車旅に出る『Winter Love』をざっと流し、その道中で藤村が出会ったコンビニで何かを物色していた高校生・牧村のエピソード『伴くん』を齋藤監督が担当、漁師の妻に手を出してボコられていた間男が遭遇する怪異『父』を竹中監督が描くって感じです。

「藤村があの時出会ったアイツは、こういうことをしていたのか!」とか、「あの時のアレの真相は、こういうことだったのか!」っていうような繋がりを持たせていて、1本の映画にするために巧いことまとめていますし、基本独立した短編でありながら後々の展開に期待を持たせてワクワクさせる効果ももたらしています。
ただ、その繋がりが何かしらの意味を持つかと言うと別にそうではなく、むしろ何か繋がりがありそうで別にないエピソードも混ざって惑わしてくるため、その部分はちょっと勿体なさがあったかな……話の導入になっている石坂浩二の秘密の話とか、藤村の隣人の鈴木福くんとか関わってきそうでこなかったし。
更に各短編内で普通に時が経ったりするのもややこしかったですね。特に『伴くん』→『父』への流れが複雑で、『伴くん』で社会人になるまで牧村たちを描いたと思ったら、『父』で牧村たちが高校生だった時に戻り、しかもそのまま10年が経って『伴くん』ラスト時よりも歳を取った牧村たちが再登場する……という具合に。

各エピソードでも、話の充実具合にはバラつきがあり、『Winter Love』は藤村と出会う人のやり取りは楽しいながらもオチもなくぬるっと終わりますし、『父』は親子の話から突然ジャンルがホラーになったかと思ったらまた親子の話に戻る振り幅の激しさに対して説明不足が目立つ作品です。

ただ、齋藤工担当の『伴くん』に関しては2人のはみ出した高校生の奇妙な友情と青春を、しっかりとした起承転結と笑いと感動を持って構成しており純粋に完成度が高いです。テーマである「秘密」に一番関わっている上に、単純な物語の出来としても頭抜けているため、本作の骨子部分と言って良いでしょう。
話の内容は、いつも「死にたい」と叫び奇行を繰り返す問題児の伴くんに、唯一の親友である牧村が生きる意志を与えるために姉のパンティーを売ってやるというブッ飛び具合なのに、滅茶苦茶笑えて最後には謎の感動と青春の爽やかさすら感じてしまう快作なんですよ。
本作がシュールでキテレツなだけの作品に終わらなかったのは、『伴くん』の出来が真っ当に良いという功績がデカいです。僕が齋藤工贔屓になる理由がまた一つ……

勿論、他2人もシュールながらも、結構面白い作風を魅せてくれてはいましたヨ。
竹中監督は割とホラー映画としてビクッとくるような演出をしていて驚きましたし、山田監督も「藤村が落ちているエロ本をじっと見つめる→振り切ってチャリで走り出す→次のカットではチャリの籠にエロ本が入っている」という描写の省略が生み出す小慣れたギャグと、遠景から徐々に近づいていく人物の独特なカメラワークが両立されていて楽しかったですし。
3監督の異能っぷりは存分に堪能できるかと。


総評としてはオススメできるポイントも、オススメし難いポイントも雑多に混ざっていて、その双方が絶妙に交わっているからこそ面白いという正に『ゾッキ』といった感じ。
なんでしょうね、物凄く穿った表現をするならば、劇場で観終わった後に(この映画の面白さを真に理解しているのは、きっと俺一人だろうな…!)って悦に入るサブカルクソ野郎が好みそうな映画です。そして、僕はこの映画が結構好きなんですよ。
つまり…その…まあ……そういうことです。

ある意味オススメ!