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MINAMATAーミナマターの小のレビュー・感想・評価

MINAMATAーミナマター(2020年製作の映画)
3.5
ちょっともったいない気がした。写真家ユージン・スミスの作品テーマは<公害の悲惨さと人間の美しさと>(https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/minamata-aileen-m-smith) だろうと思うし、本作もそれを描いているけれど、公害との闘い部分が中途半端で、自分にはノイズだった。

スミスの代表作「入浴する智子と母」を撮影するシーン、映画で描かれたユージンの作品映像がとても素晴らしい。被害者家族の中で生活していくうちに、悲惨さだけでなく、人間の愛や美しさも表現するようになったのであろう、心震える頂点の1枚。

一方、水俣病被害者の補償を求めて闘うリーダーヤマザキ・ミツオさん(演者は真田広之さん)のシーンは、この描き方ならば、無い方が良いと思った。

熊本地裁が水俣病の原因企業チッソに慰謝料の支払いを命じた後、被害者たちが経営者に直接交渉する。実際の映像は『水俣一揆 一生を問う人々』に生々しく残っているけど、それと本作の違いにちょっと驚いた。

地元の人に気遣ってなのか、とても抑えた表現になっているけど、あんな静かな怒りみたいな雰囲気なのに、次の場面ではヤマザキさんが社長の前の机上で胡座をかいていて苦笑した。実際もそうなのだけど、これは『水俣一揆』を観たほうが絶対に良い。

本作で一番感じたのは、悲惨な被害実態、怒りという感情が渦巻く状況にあっても「人間ってやっぱり美しい」ということ。とても酷い状況や怒りの映像、写真によって公害の悲惨さを伝えていくことはもちろん重要なのだけど、当事者ではない人はいつしか慣れて、記憶の片隅に追いやってしまう。

しかし、鮮烈に残る1枚の写真、ワンカットがあれば、水俣病の悲惨さも忘れることがない。自分にとっては本作の撮影シーンは、ユージンの実際の写真ともに、ずっと記憶にとどまるものとなったと思う。
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