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わたしは金正男を殺してないの小のレビュー・感想・評価

3.5
北朝鮮の朝鮮労働党委員長・金正恩の実兄である金正男が、監視カメラが多数あるマレーシアのクアラルンプール国際空港で、2人の女性に神経猛毒剤「VX」を顔に塗られ殺害されたことは、当時ニュースで大きく取り上げられたから知っている。2人の女性と、彼女を裏で操っていた人達のその後(捜査、裁判の結果)もやはり報道されたレベルで知っている。

彼の国が非人道的なことは今さら驚くことでもないし、自分の中ではネタバレしているから衝撃とか面白さはもうひとつ。

しかし、実行犯の女性2人と、裏で糸を引く工作員たちとのやり取りなど、彼女たちがどの様に操られていたかが具体的にわかるのは貴重で、事件を知っている人の疑問にも答えてくれると思う。ドラマのような構成、効果音も良く、この事件をあまり知らない人が観たら、かなり面白いかもしれない。

そうではない自分が考えたことは、普通の人が人殺しの道具として悪用される時代になったのだなあ、ということ。

暗殺者って特殊な訓練を受けたスペシャリストのイメージ強いけど、どこにでもいる若い女性が、簡単になり得るって怖ろしい。高額なギャラをちらつかせ、ドッキリ映像を撮るから、といえば"道具"集めにそれほど苦労はしないのは、インターネットやスマホで映像制作のハードルが下がった副作用だろう。

戦争だって、今やドローンで"Good kill."だから、テレビゲーム感覚でできてしまう。どこかに連れていかれて、ゲームをしているつもりだったのに、知らないうちに戦闘員になっていた、なんてことが今後あるかもしれない。

一方、映画で、金正男殺害までの工作員たちの行動を追えたり、素顔の映像が観れるのもやっぱりインターネットやスマホのおかげ。取材も十分だから、関係者のインタビューをつないでつないで時間を稼ぐ退屈なドキュメンタリー映画とは一線を画し、良くできてる感はある。もし、事件をあまり知らない人は、何も調べず、そのままの状態で観るのが吉。
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