マンボー

宇宙でいちばんあかるい屋根のマンボーのレビュー・感想・評価

3.7
元々は観る予定はなかったけれど、会員デー、割安で観られるということで、どかどかと仕事帰りに映画館へ。

『新聞記者』を撮った監督の映画だとは、全く気付かず。とにかく、カメラが清原果耶を追ってくれるので、彼女のさわやかな魅力に当てられました。

映画自体はミニマムでファンタジック。適正年齢は、小学五年生ぐらいから、高校生ぐらいまでという印象。

一見古風なイメージの清原果耶が、シーンによって、髪型や服装、演技にポップさが加わり、大人びて見えたり、やや幼く見えたりして、彼女の幅広い魅力に気付かされる。

そしてそんな彼女を支えるのは、不思議な老婆を怪演する桃井かおり。そして非の打ち所のない容姿を誇る好漢・伊藤健太郎。さらには血のつながらない母親役の坂井真紀たち。

血のつながらない母親と、実父と暮らす高校生(てっきり高校生かと思っていたら、14歳の設定で中学生でした……)の清原果耶は、血のつながりのない母親のお腹に赤ちゃんがいる状況に、実は疎外感を感じている。それ以外にも、学校の男子たち?から、ネットで覚えのない中傷を受けたり、憧れの男性もいるが、どうすれば関係を進展させられるかが分からない等、誰にでも起こりえる思春期の悩みや、独特の家庭環境から生まれる不安を胸に秘めて日々を暮らしている。

そんなときに、よく通っている書道教室の建物の夜の屋上で、口が悪い蓬髪(ほうはつ)の老婆に出会い、いつしかお互いに話しづらいことまで話すようになって……というストーリー。

終盤まで、老婆のことをヒロイン位しか目に見えない存在のようにほのめかしながら、実は……という種明かしは反則スレスレながら、案外収まりはよかった。

高校生のごく普通に見える女の子の物語とあって、やや彼女を取り巻く世界が狭く、スケール感がなかったことは物足りなく感じた。ともあれ、素直でまっすぐな歌声を含めて、彼女の彼女による彼女のためにあるような作品で、若いながら落ち着いた魅力が横溢していた。

映画が終わり照明が点くと、観客は二十代後半から中年の男性ばかりで、公開第一週ということもあってか、コロナ禍にしては珍しく人が入っていた。

自分を含めて、この年代の男性には少し物足りない作品かもしれず、映画の戦略的には必ずしも芯を捉えていない懸念はあるが、観れば胸に響く世代も必ず存在するだろうと思う。

また彼女の素直な歌声もいいが、やはりCoccoの楽曲もよい。その曲と歌声は、映画の余韻を一段押し上げていた。

それにしても、実は映画の中の彼女は周囲の人に恵まれている。本当は、原作者や映画作家、脚本家などのストーリーテラーには、もっと恵まれない主人公を、見事に幸せに導いてくれることを期待している。そんなストーリーこそ、きっともっと多くの人々にとって、大いなる救いになると思うから。