マンボー

佐々木、イン、マイマインのマンボーのレビュー・感想・評価

佐々木、イン、マイマイン(2020年製作の映画)
3.8
まるで和製パンク。海外のパンクロックとの違いは、意外にポップで、フォークや演歌に負けない人情味もある。

脚本家がやりたいことはよく分かる。佐々木の意外性あふれるキャラは、風貌は男くさくて全然可愛くはないけれど、反面人間性はたまらなくいじらくて愛おしい。

結局、なかなか自分のことについて決断できない主人公が自分でも掴みきれずにいた想いについての物語なので、普通は付き合いきれない感覚になっても仕方ないところだけれど、主人公の親友にしてメンターのような不思議なキャラの佐々木が、次に何をやってのけるか、何をのたまうのかが気になって飽きずに見られた印象だった。

佐々木のキャラは、全裸になったり、誰もが悩み苦しむようなことでも、悟ったような顔をしてシンプルな答えを掴み取ったり、自分には何もなくても人には与えて、純真な子どものようにやさしくて、あたたかかったり、嘘やごまかしがまるでなくて、いつでも率直だったり、ちょっとブルーハーツのヒロトの歌詞や言葉、イメージも混ざっている気がした。

アフロのような髪型には、大好きだったフットボール(サッカー)のコロンビア代表を思い起こした。攻撃は「ピーペ」(愛すべきガキンチョみたいなニュアンス)ことカルロス・バルデラマ。地毛の金髪アフロの存在感だけでなく、全ての攻撃はほぼ彼を経由するのに、キックはほぼインサイドキックのみ。ただそのインサイドキックの精度は、強弱含めて正確無比で、敵はギリギリ足が届かず、味方には完璧な位置にボールを送る。どれだけ屈強な複数の相手にマークをされても、幼い頃からの草サッカーで鍛えた鬼のキープ力で、華奢にも見える身体を巧みに使ってボールを渡さず、一瞬の間隙を突いて針の穴を通すような精妙な正確さで試合を決めるパスを出す。

そして最後尾には黒髪アフロの怪人、レネ・イギータ。時にゴールマウスを離れて指示を出し、ディフェンスラインを高く保って、超攻撃的なサッカーを志向しつつ、タイミングを見るや最後尾からドリブルやワンツーで駆け上がったり、ペナルティーエリアを飛び出して守備をすることも厭わず、ワールドカップでは手痛いミスもしたけれど、調子のよい時はチームの全てをコントロールして一人の影響力で勝利をもぎとる異能の人。

そして実は中盤の底に黒髪アフロがもう一人。バルデラマの守備力を埋めて、レネ・イギータのやりたい放題をフォローする真面目な仕事人リオネル・アルバレス。バルデラマやイギータ、フレディ・リンコンらの活躍の陰には、彼らを地味に支えた海賊船の船長のような風貌で代表キャップも100の大台を超えた彼の姿がありました。

そんな攻撃的でありながら、統率の取れた守備と、崩れた相手の隙を突いたパスと、フォアードのカリビアン系黒人の圧倒的な身体能力で、マラドーナ抜きのアルゼンチンやヨーロッパの強豪に圧勝したり、互角以上の戦いをしたかと思えば、新興国に研究されてあっさり惜敗する不思議なチーム、映画の中の佐々木の姿を見つめながら、どうしても目が離せない1990年前後のロス・カフェテロス(コロンビア代表の自国内の愛称)のフットボールを思い出しました。

残念だったのは、佐々木の無駄脱ぎのインパクトが、彼の本当の魅力を少し隠してしまっていることや、主人公にとって佐々木は大きな存在だったけれど、他の友人やクラスメイト、全校生徒にはその魅力がさほど伝わっていないように描かれていたこと。佐々木の魅力は、もっと多くの人を魅了したっていいと思うし、誰もが純真さを残していた学生時代なら、なおさらそうあってほしいとも思う。

終盤のバッティングセンターのシーンと、ラストシーンは、きっとそうなるのじゃないか、どこでそれが起こるかなと思って見てしまっていた。

佐々木役の細田岳、佐々木が好きになる女性役の河合優実の役柄上のキャラクターとその表情が素敵だった。

迷いながらブレながら生きている主人公と、迷いなく生きているように見える、営業マンや家庭があり子どもが生まれた親友たちとのコントラストが活きていた。

佐々木というキャラは、本当はかなり一貫性に乏しくて、何人かを組み合わせすぎたのか一人の人物としてのリアリティーは薄まっているけれど、そんな人物を作り出そうと四苦八苦する作者の姿が透けて見えて、巧くはないけれど好感を持った。

結局、主人公の決断や生き方も、佐々木の企みも、映画が終わって思いかえせば、どうしようもなく他愛ないけれど、勝てなくても立ち向かう姿や、好きなことを貫く姿や、誰にでも等しく親切なあり方を、完璧に真似することなんてできないけれど、アフロやコロンビアやヒロトらを思い浮かべたときに、これからは自分も本作の佐々木のことを思い出すだろうし、「佐々木、マイ、マイン」は本作の主人公だけの言葉ではなく、作り手や観客、本作に関わり、この作品を気に入った全ての人の合言葉になるようにと望まれて生み出された題名なんだろう。

いや、観ている間は特に何が何だかわからなかったけれど、何だかんだで面白かった。