こうん

のぼる小寺さんのこうんのレビュー・感想・評価

のぼる小寺さん(2020年製作の映画)
4.0
なんだか「アルプススタンドのはしの方」と近しい映画というか、併せて観たほうがいいよ的な声を聞いたもんで、高校卒業して20年以上経つおじさんは重い腰(腰痛だから)を上げて観に行ってきました「のぼる小寺さん」。

凄く雑に感想をまとめると、小寺さんが良かったし、そのタイトルロールを演じる工藤遥さんが良かった。
彼女を様々な思いをもって見つめ接する周りのキャラクターたちよりも、好きなことに一生懸命で超然としている小寺さんが超魅力的だったな。

彼女のしぐさや表情や体の動きがダイレクトに、彼女の感情を表現していて、野に放たれた犬や猫のノビノビしている様を見ているように爽やかで、それだけで気持ちよかったですよ。

もっと言うと、彼女が何の躊躇もなく窓枠を超えていくアクションだけで、この映画を観た甲斐があったと思います。
また工藤遥さんの身体性を駆使したボルダリングの描写も、真に迫っていて、スポーツ映画としても説得力があったし、山岳ドキュメンタリーに通じるような緊張感もきちんとあったのではないですかね。

古厩智之監督、「この窓は君のもの」以来超久しぶりに拝見したんですけど、良かったですね~。この映画への興味として「この窓~」のほのかな恋愛青春モノと映画的な空間の捉え方がすごく良かった記憶があるんで、その辺のブラッシュアップが観られるのではないかと期待してましたが、観られました。

ある種特殊な構成やキャラクター相関を持った物語で、なおかつドラマ的な起伏に乏しい題材と思いますが、そこをきちんと画で見せる、ということに注力された映画になっているんじゃないでしょうかね。もちろん吉田玲子さんによる端正なシナリオも良いと思うのですが、俳優の演技と肉体性と画面構成と編集の綾で見せ切っていることに好感を持ちましたね。

しかし僕は昭和の人間なので、恋愛感情がスポーツへの情熱のモチベーションになる、というところに「不純だ!不純だ!」となってしまうところがあるみたいで、そういう意味で近藤君に一言申し上げたい。

君は本当に卓球が好きなったのか?

昭和のオジサンには、彼の情熱の半分は卓球でもう半分は小寺さんに向かっているように見えて、「お前は練習中ちょいちょい小寺さんのところに行くな!」と思ったし、「小寺さんが見えなくなるくらいもうちょっと卓球に打ち込んだらどうだい」とも思ったし、「よくそれで昨日までボンクラ共有していた友達の握手を拒むよな」とも思いました。

四条君は小寺さん目当てでボルダリング始めてきっちりボルダリング好きになってたけど、近藤君はボルダリングの横で練習する限り、彼の卓球は小寺さんの熱中の高みには行けないよね、と思いました。

あの胸キュン(死語)ラストもいいけれど、小寺さんの熱中が伝播した近藤君を、逆に小寺さんが眩しく見ている、というほうがテーマに沿いつつ映画の反転構造として収まりもよくラブ事情も含まれていていいのではないかと思いましたけどどうなんすかね。

あと、あの握手拒否は(監督の意図は読みましたけど)、納得いかーん。取り残された彼らの哀しさもあると思し、その哀しさを近藤君はいちばんよく知っているはずなのだから、なにかしらフォローあっても良かったと思いますよ。

…という若干の不満はあるものの、小寺さんの窓枠ジャンプが1億点なのでこれ以上文句は言うまいという感じです。

個人的に、高校時代も含め10代後半戦はもう「映画!映画!」で、あんまり彼らのような悩みはなくむしろ小寺さん側の人間だったので、こういう感想になりました、という自己分析です。
ただ部活における先輩後輩の関係は羨ましく、あの超ナイスキャラのボルダリング部の先輩二人は理想の先輩なので、スピンオフドラマ作ってほしいですね。
小寺さん入部前のエピソード0とか。
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