マンボー

実りゆくのマンボーのレビュー・感想・評価

実りゆく(2020年製作の映画)
2.9
とても惜しい映画。やりたいことは分かるし、雰囲気はあるけれど、論理性に乏しくツメが甘くて、素人くさい作品だった。

主人公はまるで美男ではないけれど、味があり表情も佇まいもかなりよかった。キャストで惜しかったのは、あけみちゃん役。元々の彼女にはちゃんと女性としても人としても魅力があると思うけれど、元ヤンキーというにはパンチやシャープさがなくて、ただの冴えない田舎娘に見えて、本作のストーリー上は効果的に見えなかった。

最大の難点は、主人公を含め若手芸人のしゃべりがクスリとも笑えないこと。同じ地域限定ネタが出し惜しみなく何度も繰り返されるのが映画の観客としては先が見えて新鮮さにも欠けてつらかったし、もっとめちゃくちゃでも、下劣でも、奇妙でも、あざとくても、何でもいいから観客の感情に訴えかけるものがほしかったし、いくら笑い声を付け足して取り繕っても、かえって違和感が増すばかりで痛々しかった。

さらに、儀式としてのお祭りにリアリティが感じられなかったり、結局、りんご農家を取るか、お笑いを取るかが曖昧で終わり、作り手の主張がぼやけていたり、作り手がどうしても伝えたいことがあって映画を作ったというよりは、ただ映画を作ってみたくてそれらしいストーリーを用意したように見えた。
そのため作り手が本当に伝えたいことが希薄でストーリーのテーマが定まりきらなかったのではないかと思う。

本来、主人公の芸人としての成長と、その成長により最後には父親に認められるという筋にするなら、クライマックスでピンからコンビになっていくら流麗に話して見せても、それだけでは不十分で、漫才のやり取りや切り返しに斬新さや独特の切り口があり、さらにそれなりに本当に笑える場面があってこそ説得力が生まれるものだが、本作では主人公は初めから最後まで、技術的には何ら成長していないように見えてしまった。

また、雰囲気のある良いシーンもあるが、少年時代のいじめのシーンや、様々な場面のカメラワークなど、あまりに類型的で工夫がないシーンも目についた。
田舎を舞台にする場面が多く、あえて保守的な演出を狙ったのかもしれないけれど、映像としての面白みやひっかかりに欠け、昭和後半や平成前半頃の前時代的でやや古めかしい映像と、現代の性能のいいカメラで撮影した映像とが、ただ奇妙に混ざり合ったようにも見える作品だった。

また、実ることへの言及もややしつこい。同じことをそんなに何度もほのめかしたり、語らなくてもいい。大切な言葉はさらりと、でもあとで観客が反芻したくなるような演出を目指してほしかった。

加えてどうしても思ってしまうのが、一人しゃべりや漫才を、爆笑問題の二人や、複数の作家にちゃんと監修してもらえなかったのかということ。そうしていれば、肝心かなめのいくつかのシーンが、こんなにも中途半端にはならなかったのではないか。
またピンポイントでセンスを感じるシーンはあるが、全体を通してストーリーやディテールに、もっと玄人の厳しい目と、磨き抜くこだわりとが必要だった。

反面、りんご農家を、それなりに誤魔化さずに描いているように見えた点はよかった。さらに何より、タイタンというおそらく名前に反して割合規模の小さい事務所が、所属メンバーをあげて映画を作ったその企画の主旨が素敵だと思った。その事務所の社員、芸人、社長が、それぞれに対して愛着がないと、きっとこんな企画を通せないだろうし、実現は不可能ではないか。

また、映画監督とは、特別な天才以外は一作目から大成功をおさめることは稀有であり、実力のある人は経験を重ねて良作を生み出す。
本作を撮った監督にこそ今作の主人公以上に本当の夢をあきらめずに、今作の様々な点から学んで、一本筋の通ったストーリーテリングと、徹底したディテールを備え、雰囲気でごまかさずに、人の心をとらえて離さないすばらしい作品をいつか未来にモノにしてほしいと心から願ってやまない。

どもりの百姓。あんなにお百姓さんばかりの超農村地域の小学生たちが、どもりはともかく、お百姓さんをあんな言い方で馬鹿にできるだろうか。よくリンゴももらっているだろうし、独特の祭事をする神様まで祀っているのに? 農家の多くない地域で育った人が、中途半端な取材で机の上でストーリーを作ると、こういう説明が足りず安直で型にはまった違和感の残るシーンを考えてしまうように思うのだが。