平野レミゼラブル

まともじゃないのは君も一緒の平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

3.8
【普通を突き詰めて、王道を進み、そしてまともじゃなくなる】
数学以外に打ち込んでこなかったため、人付き合いが苦手な予備校講師の大野(成田凌)と、そんな彼に恋愛指南をする教え子のJK香住(清原果耶)によるラブコメディ。タイトル通りに「まともじゃない」人達によって繰り広げられる「まともじゃない」関係性をユーモアたっぷりにお送りしていまして、そのため作品テーマは「普通って何?」です。

人並みに結婚したいけれどもド変人なため人付き合い自体が上手く行かない大野を、ちょっとずつ香住が「普通」に矯正していこうと悪戦苦闘していくのが物語のおおまかな筋ですが、それに合わせてか物語自体も大仰な演出等を廃して、単純な会話劇のみで構成していく「普通」っぷり。特に物語前半は成田凌と清原果耶の2人が延々と掛け合いを続けているという「普通」さなんですが、このやり取りというのが和製『ハーフ・オブ・イット』とでも言うべき軽妙なテンポで実に面白い!
割とマシンガントーク気味に会話が成されますが、変人大野を経由するため、いい感じに噛み合わず、どんどんgdgdになってゆくちょうどよいゆる~~~さ。長回しで撮っているのに、全く会話に淀みがないのは2人とも流石の演技力ですね。
また、コミュニケーションが全く取れなければ、恋愛知識もゼロだし一般常識もズレている大野の恋(?)を応援していく内に香住もまた……というこれまたラブコメだったら「普通(ベタ)」な展開も当然ありまして、そこら辺も『ハーフ・オブ・イット』同様の王道(ふつう)展開でニヤニヤしてしまいます。

成田凌は変人をやらせたらイキイキと輝きだす役者なので、変人数学講師たる大野を演じるとなれば、正に水を得た魚なんですよ!まるで会話が成り立たないイカれたペッパー君具合が絶妙で、会話テンポがやたら軽妙なのも相俟って自然に笑えます。
かと思えば、怪鳥音めいた笑い声を突如響かせる不意打ち的な笑かせ方もしてくる。もうこうなってくると、何をやっても可笑しいってもんで、最終的にスーツ姿でボーッと突っ立ってるだけで滅茶苦茶笑えてくるんでズルいです。

清原果耶ちゃんは兎に角カワイイ!!会話相手が大体大野な為、表情のほとんどが「ハァ?」って感じなんですが、その顔がもう可愛いのなんのって……顔芸まではいかない絶妙な表情の機微で魅せてくれます。清楚で古風な美人ってイメージでしたが、こういう振り回されるツッコミ役も似合いますね!
そして、彼女もまた実は「まともじゃない」側の人物です。他人の陰口しかない同級生と話を合わせるのが苦痛ってのは普通の善性ですし、胡散臭いプぺ……小泉孝太郎のセミナーに参加して中身が一切感じられない思想に同調するのはまあこれも若さ故って感じでもあるので別に良いです。ただ、そこから孝太郎と恋愛関係になろうと目論みだすのは色々おかしい。そもそも大野に恋愛指南をしている最大の目的というのが、彼に孝太郎の婚約者を寝取らせて、あわよくばその後釜として孝太郎に取り入っていく為というんだから凄まじい。とんだ暗黒JKですよ!ただ、彼女は恋愛と尊敬を混同しているような感じであり、だからこそ恋愛指南もポンコツじみているってのが微笑ましいところですが。
恋愛観がスッゲェーガッツいていくスタイルだったり、バーで飲んだくれたり(エナジードリンク10本)と、ところどころ感性が親父めいているのも笑う。そういや、カラオケの持ち歌がPUFFYの『これが私の生きる道』なところなんかもイマドキJKの感性からかけ離れていて、色々難儀だなァって感じです。やけに歌は巧かったけど

この2人の掛け合いが凄く楽しかったんですが、後半からは孝太郎とその婚約者を巡る四角関係(?)がメインとなり、会話劇が落ち着いていってしまうのはちょっと寂しいところでもありました。いや、その寝取り寝取らせという割ととんでもない香住の策略が、単純に隣にいる君が好きに変わってやきもきするサマに滅茶苦茶ニヤニヤするし、そんな彼女の葛藤に気付かないまま無邪気に恋の進展にはしゃいでいる大野も可愛くてトータルでは満足ではあったんですが!
それはそれとして、割と後半は真面目に「普通とは何か?」を模索していく感じで、また雰囲気が違っていてちょっと面食らう部分もあるっちゃありました。

しかし、「普通」という一つのテーマを深堀りしていく姿勢は素晴らしく、かなり一貫して話をまとめていく構成にも好感が持てます。
大野や香住がうっすらと感じているものは「自分は世間一般から求められる普通とは違うから息苦しい」ってことであり、それは今年公開の秀作『ヤクザと家族』や『すばらしき世界』をも連想させ、実は本作はこうした現代日本社会の抱える病理を鋭く指摘して問題提起した………いや、そこまで深刻じゃあないよ!!!でも、割と本質は同一な気がしなくもない。

まあ、後半は真面目に寄りすぎて若干生々しい部分もありつつも、テーマに対して非常に真摯で、それでいながら単純明快に面白いウェルメイド作品となっているので良いですヨ!!観た後は、なんだか本作に出てくるカップル(小泉孝太郎も含む)が、全員何処か愛おしくなるくらいにはハマってしまう。そんな優しい作品です。
まあなんだかんだ一番愛おしくって、可愛らしいのは成田凌と清原果耶のカップルなんですが!!

オススメ!