ヨーク

最後にして最初の人類のヨークのレビュー・感想・評価

最後にして最初の人類(2020年製作の映画)
3.8
旧ユーゴスラビアに点在するスポメニックという巨大で奇天烈な建築物群を知ったのはかなり前だったと思うが、本作はそのスポメニックをほとんど動かないどっしりとしたカメラでとらえてモノクロのやや重苦しいと言ってもいい映像とヨハン・ヨハンソンとヤイール・エラザール・グロットマンの黙示録的と言ってもよいだろうこれまた重く荘厳な劇伴と共にオラフ・ステープルドンの本作と同名のSF小説『最後にして最初の人類』から引用されたセリフ(?)ナレーション(?)をティルダ・スウィントンが朗読するモノローグに乗せてミックスさせた映画である。いきなり長い一文だったがそれ以上は言いようがないという作品でもある。劇映画ともドキュメンタリーとも言い難いし、まぁ敢えて言うならアート映画といったところだろうか。
しかし俺この映画を観るのはちょっと迷ったんですよね。というのも俺は軽度の巨像恐怖症でデカい建築物とか彫像とか苦手なんですよ。昔は西新宿の高層ビルとかでもずっと眺めてると胸がざわついてくるという具合で、流石にもうビル群には慣れたけど巨大な人型の像とか何だかよく分からない抽象的な構造物とかは今でもちょっと怖かったりする。だから本作も巨大な建造物が延々映される映画だというので若干躊躇うところはあったのである。しかし怖いってのは興味があることの裏返しでもあって、最初にスポメニックというものはかなり前から知っていたと書いたが怖いなぁと思いながらも昔から某匿名掲示板とかで積極的に調べたりもしていたのでまぁ何だかんだ好きといえば好きなんですよね。巨像恐怖症とは言っても軽度も軽度だと思うので写真や映像だけならほぼ問題ないし。
という感じで俺は本作を観たんだけど、まぁ結論から言うとそこそこ怖い映画ではありました。やっぱ怖かったんじゃん! と思われるかもしれないが、いや作中に出てくる巨大なモニュメントの威容が怖かったというよりも作品全体の雰囲気とか設定とかが不気味でなんか薄気味悪い感じなんですよ。劇映画ではないと書いたが一応オラフ・ステープルドンの同名SF小説(ちなみに未読)から世界観とかを拝借しているところはあって、それが20億年先の進化の果てにある人類が太陽の膨張かなんかで逃れられない絶滅を迎える際に現在の我々にテレパシー的なメッセージを送ってきているという設定なんですよ。我々はこうこうこのようにして滅びていきますよってことをティルダ・スウィントンが感情の起伏のない淡々とした調子で語っていき、映像としては人間はおろか動物さえ映らない異形の建築物だけを観せられるわけだよ。そこに重低音なアンビエントサウンドも被さってくるのだからどことなく不気味な雰囲気もするってもんですよ。さらにメタ的なことを言えば監督のヨハン・ヨハンソンは一足お先に亡くなってしまっているということもあってますます滅びや死というものの影が色濃く出ている映画になっていると思う。その辺は何か怖いというよりも祇園精舎の鐘の声とでもいうかメメントモリ的とでもいうか、いずれやって来るであろう滅びに対する畏怖のようなものをビンビンと感じる映画でしたね。
また音楽がよく出来ていて重低音がドーーン! と鳴ったかと思ったら一転して水を打ったように無音が広がったりして凄く効果的に感情を揺さぶられましたね。音響と相まって霧深い並木道の向こう側にある建築物が、徐々に霧が晴れて行ってその輪郭を現わしていくシーンとかそんじょそこらのホラーよりもよっぽど怖かったよ。
とまぁそんな感じで映画自体は映像的にもテーマ的にも重い感じのものなんだけど、ぶっちゃけ本作は劇映画でもドキュメンタリー映画でもなくアート映画であるということを踏まえると劇場という場で展開されるインスタレーションの一種という気もしてくるのであまり深く考えずに、未来の人たち大変っすね、何かできることあったら遠慮せず言ってね、くらいの軽い気持ちで肩の力を抜いて流し見するのが丁度いい映画なのではないだろうかという気もする。椅子に座ったままでボルタンスキーの企画展を巡るくらいのノリで観るのが正解じゃないかなと思いますよ。
あと俺が見た他の人の感想では鬱が酷いときとかに観たらヤバイ、って感じに書いてる人が少なくとも二人いて確かに精神状態が不安定なときは堪える映画かなという気はしますね。
まぁ個人的には恐ろしくも魅力的な異形の構造物をたくさん観られたので大満足です。ちょっと前に出た写真集買おうかなってくらいにはグッときた。お前軽度の巨像恐怖症とか言ってるけど絶対巨像好きだろ? って思われるかもしれないけど怖いのは本当なんだよ。ただそれと同じくらいに魅力的なのもまた本当なのだ。いいもん観れました。
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