マンボー

瞽女 GOZEのマンボーのレビュー・感想・評価

瞽女 GOZE(2019年製作の映画)
3.2
描こうとした題材に興味があって足を運んだが、正直に云ってどこか物足りない作品だった。

中世以降、幼い頃に目が不自由になった者が就く職業といえば、多くは按摩や鍼灸師、さらに家柄がよい者はかつては琵琶法師など楽器奏者になったもので、身分が低いと旅芸人の一座に加わったりもしていたものと思われるけれど、本作は1900年(明治33年)生まれで、最後の長岡瞽女と呼ばれ三味線を弾き、独特の瞽女歌を唄う小林ハルさんを描いた作品。

ちなみに瞽女(ごぜ)は、さらに時代をさかのぼると巫女のように信仰に結びついていて、盲御前(めくらごぜん)と敬意を込めて呼ばれていて、これが変化して瞽女と呼ばれるようになったそうな。

はるか昔から蛭子(水子)など、欠損がある存在は神、または神に近しい存在として崇められる傾向があり、そんな根深い信仰を背景にして、庶民のハレの席で瞽女を呼ぶと福が来るとされ、彼女たちは近隣や彼女たちの存在を知る土地の有力者に乞われては、時には峠を越えて他県にまで足を運んでいた。

気候は時に厳しいものの、描かれる風景は美しくて撮影手法への工夫は感じるが、物語の底が浅くて物足りなかった。序盤、目の見えない子供のために、実母はまだ幼い主人公に厳しくしつけを叩き込むが、そこで実母の葛藤を描きすぎているので、子供がどうして母親はここまで厳しいのかと困惑する気持ちに寄り添えず、後年自らが親方となり、弟子の子供たちに教育をほどこす際に、母親の心情に思い当たるシーンも見え見えすぎて感動できなかった。

また、その時代、その世界ゆえの厳しさやひどい仕打ち等も描かれているが、ただ描いているだけで、その出来事がその後の展開に活きておらず、やや平板でそのくせ凄惨な印象が残り、空虚で後味が悪いことも残念だった。

さらに、主人公を演じた吉本実憂さんは、本当にきれいで好感の持てる方だと思うけれど、瞽女という職業をまっとうする女性としてはやや線が細く可憐すぎてリアリティーを感じられず、より芯が強く見えて、個性が強い女優の方がこの役柄に合っているように思えた。

たまたま翌日、1980年代序盤に一世を風靡したドラマの「おしん」の総集編を観たのだが、「瞽女」とほぼ同時代の女性の生涯を描いた作品として、エピソード、時代考証、人物の描き込み、全てにおいて40年近く前のテレビドラマの方がよくできていた。やはり、当時は明治、大正を生きた方がまだまだ多く生きておられて、直接取材ができたことや、脚本家が昔の風情を体感していたことがアドバンテージになっていて致し方ないとは思うものの、個人的に興味と期待があった題材だっただけに残念で、段々と幕末や明治の物語は遠去かり、描くことが難しくなってきたことを痛感させられた。