ヨーク

大怪獣のあとしまつのヨークのレビュー・感想・評価

大怪獣のあとしまつ(2022年製作の映画)
3.2
なんかとんでもない酷評の嵐だったので「これは世紀のクソ映画が観られるのか!?」とやや期待しながら劇場へ行ったのだが、結論から言うとまぁそこまでクソ映画というほどでもない、でもそのクソ映画評に対して真っ向から反論してやろう! と思えるほどの出来の映画でもないという、何やら非常に微妙な出来の映画であった。いやこういうの一番困るんだよな…。ゴミだカスだとやたら強い語調でリンチ的に作品を貶すような輩はハッキリ言って野蛮極まりないしロクに映画を観る目もないのだろう、と思うのだが、実際この『大怪獣のあとしまつ』が面白かったよ! と言える出来の作品だったのかというと…う~ん…とはなるのである。
なので俺としてはこの映画は肯定も否定もし辛いなぁ、という感じだがまぁどっちかと言えばつまんなかった寄りではあるだろうか。感想に入ると、本作に対する批判の中でもとりわけよく見るものとして「邦画のダメな部分が凝縮されている」というような感想を見る。あとは作中で描かれる政治家や特務隊やら国防軍といった面々のバカさ加減が酷いというものなんだが、いやでもそれはなぁ、と思うよ。だって一般的な読解力があれば観りゃ分かるだろって思うけど、本作はその辺「茶番を茶番として描く」ということに関しては徹底してるんですよ。なので「こんなの茶番劇でくだらない!」というのは批判としては的外れだろう。そのズレ具合というのは空を飛んだりテレポーテーションするサメ映画を観て「こんなのはサメの生態じゃないからクソ映画」というのと同じくらいの滑稽さがある。まぁ本作は(右派左派問わずに)政治家という存在や、明らかに福島原発の事故を見立てたであろう大怪獣の処理問題にまつわるあれやこれやをひたすら下品にこき下ろした作品ではあるので鑑賞者の立場を問わずに不快感を感じるというのは理解できなくもないのだが、ただそれを皮肉として戯画化しているということにすら思考が回らないというのは受け手としてどうなのよ、というところはありますよ。恋愛パートにしたってあからさまに取ってつけた感があって、ラストシーン共々そういうテンプレ展開の下らなさを敢えてコケにしてるのが見え見えじゃん。
保守とかリベラルとか原発反対とか推進とか、そういう立場に関係なく全方位に向けておちょくってるような映画だからね、これは。だからこそ多数の人をイラつかせるということもあるのだろうが、ただまぁそういうコンセプトくらいは分かれよっていうのはありますよ。そこ理解してれば作中で行われてることの茶番感のみをもって下らない映画だ、とは言えないだろう。しかしまぁ、最初の方に戻ってしまうがそういう映画なのだと得心しながら観たとしても、じゃあこれ面白いか? と言われたら、いや……となってしまう程度の出来ではあるのだが!
でもなんつうか変な映画だよなとは思うよ。俺、三木聡は『時効警察』と『亀は意外と速く泳ぐ』と『インスタント沼』くらいしか知らないんだけど、まぁそのラインナップだけでもオフビートのダウナーなコメディが得意な人だとは分かるじゃないですか。ぶっちゃけシネコンでかかるようなエンタメ大作を期待されるような監督ではないですよ。しかし本作は結構な宣伝量で予告編なんかも『シン・ゴジラ』のB面的な感じを匂わせるような感じで期待を煽っていたので、そういう広報の戦略も悪かったのかなぁとは思いますよ。監督の傾向を多少は知っていた俺でもノレなかった部分は結構あるのに、何にも知らない客なら尚更ですよね。いざ蓋を開けてみたら茶番のための茶番のような映画なんだから質の高いエンタメを期待した客はそりゃそっぽ向くって。とはいえシネコンのメインスクリーンにかかるような映画でも自分の作風を貫いた三木聡も凄いっちゃ凄いなとも思いますが…。いやそこはもっと客を意識しろよというのもあるが。
あとはあれだな、事前に見聞きしていた話ではパロディのチョイスがおかしいとかギャグが悉くスベってるというものがあったが、まぁそこはそうだね…という感じではありましたね。特にパロディに関しては本当に何でなのか分からなかったんだけど映画版『AKIRA』のミヤコ様がかなりの再現度でパロられるんだけど、ネタが古いし引用として上手くもないし実際の映像としても大して面白みはないしで、何だよこのパロディは…と思うんだけど特にツッコミも入らないまま次のシーンへ行ってしまうので、えぇ…何なの今のは…とセルフツッコミしたところでそのスベり具合に対してちょっと笑ってしまうという逆転現象のようなものが起こる。これはあれですよね、村上ショージとか山崎邦正(今は月亭邦正だっけ)みたいないわゆるスベり芸というものに近いと思うんだけど、しかし作中の笑いが大体その類のものなんで変な空気にはなるよね。ストレートに笑えるシーンの合間にそういうスベり芸みたいな笑いがあるならともかく全編そんな感じだからな。そこら辺はシンプルに撮影や脚本の質が低いクソ映画っていうよりも何かシュールさの極まる変な映画とでも言う他ない感じではあったよ。
いや繰り返しになるが自分のそういう芸風を貫いた三木聡はある意味では凄いとは思いますけどね、でもそれが映画の面白さに寄与してないっていうのもあるからなぁ。その辺も含めてなんか変な映画だなぁというあたりが俺の素直な感想かなぁとは思いますね。間違っても世紀のクソ映画というほどではない。たとえば週一で映画館に行く人なら年間50本ほど観るわけで、その内に2~3本くらいはこういう映画があるんじゃないかなっていうくらいのものですよ。それくらいのいまいち映画だと思う。そんなもんですかね、まぁそこそこつまんない映画くらいですよ。
ちなみにこのタイトルは出さずに感想文を終えようと思ったが、比較対象としてやたら『デビルマン』の名が挙がっていたので公開初日に劇場で『デビルマン』を観た者として一言だけ言っておくとだな、セリフがちゃんと聞き取れるだけで『デビルマン』よりはマシな映画だからな。
ヨーク

ヨーク