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大怪獣のあとしまつのbackpackerのレビュー・感想・評価

大怪獣のあとしまつ(2022年製作の映画)
2.0
内容、展開、作劇、その辺は別に普通です。全然許容範囲(下記①〜⑤等にて後述)。
でも、オチが酷すぎる。個人的に全く許容できません。

まずはオチについて。
この落とし所にするであろうことは、そりゃー見てればぷんぷん漂ってるのでわかります。わかりますけど、にしてもあんまりでしょう……。見る人も出演者もバカにしてるような、冒涜的幕引きと受け取られても、仕方がない気がします。2時間近い時間をかけてやってたこと、全部無駄&完璧な茶番にするんですから。ちゃぶ台返しもいいとこですよ。後日談の物語の筈が、実際は物語のプロローグだったみたいな感じです。

次に、本作に散りばめられたアレコレについて簡単にコメント(好意的解釈)を。

①安っぽいメロドラマ要素
別に全然気になりません。正直どうでもよかったです。男と女の惚れた腫れた、恋だの愛だのどーのこーのな全てのシーン、洗いざらいカットしても、物語にはなんの問題もありませんしね。
「世の中恋愛が見たいんでしょ?こんなもんなら満足でしょ?」と皮肉げに揶揄わんばかりの大雑把な味付けに、大変満腹になりました。

②現代日本風の世界観構築の絶妙な適当さ
大いに結構です。旗にデカデカと「国防軍」とか、帽子にこれみよがしに「特務」とか、漢字で堂々と書いてあっても、別にいいじゃないですか。その小っ恥ずかしさが愛おしい。拗らせた感がナイス。我々センスの悪い国なもんでって、自虐の香りも芳しいです。

③それでええんかな表現(例:ミサイル)
「飛んでくる2基のミサイルには、横っ面から別のミサイル(スティンガー風)を叩きつけるんだ!そうすりゃ、おはじきみたいにぶつかって、下に落っこちるんだぞ!」
総理大臣のゴーサインからミサイル発射まで無駄にグダグダ長引いてましたけど、最高意思決定者の指示から、対応までに時間がかかり過ぎますよね。この国防軍には期待できそうにないなぁ……。いや、これは逆に現実的なのか。なんでも時間かかりますからね。

④ギャグ 寒いギャグ つまらないギャグ
ここまでポカーンとするギャグにお目にかかったのは、相当久しぶりです。コメディに必要な最低限のユーモアセンス、その極地ギリギリを下回るような線引きは、実は相当優れたバランス感覚なのではないでしょうか?
背筋も凍るようなギャグだけでも、見た甲斐があったってもんです。ある意味コメディ映画の再発明なのかもしれません。「笑わせようとする世の中だけど、無理して笑わなくていいんだよ?」という優しいメッセージだと思います。

⑤社会風刺
①〜④及び作品全編を通して、シニカル&アイロニカルな社会風刺がタップリ詰め込まれていましたね。
あまりにカリカチュアされた政治家・隣国表現・マスコミ・配信者・科学者・軍人……「もう好きにしてくれ〜」も言いたくなるような風刺のつるべ打ちには、ちょっと疲れてしまいました。
でも、どの風刺描写も、ネットミームに毒された中学生が、妄想煮詰めて書いた現代風"なろう小説"みたいで、ある意味面白かったです。どれも深掘りせず上部だけ取り繕ってる感があって、むしろ好きかもしれません。


総括します。
本作は、現代日本社会及び現代娯楽映画産業に対する、シニカルでアイロニカルな風刺全開の挑戦的作品を志向した結果、既存のあれこれに対するリスペクトを失い、人を小馬鹿にし続けるだけの作品と化してしまったように見えました。
扱っているテーマそのものは、興味深く面白そうな着眼点です。故に、真面目に作ろうとすればハードテイストにできたであろうものを、あえて反対方向にガン振りしたその勇気は素晴らしいと思います。
でも、「これで観客は大いにウケる」とか、「興収ドカンと荒稼ぎ」なんて思っているようなら、それはあまりにも鑑賞者を舐め過ぎですよね。大顰蹙を買う前に裸足で逃げ出した方が……手遅れか。
口が悪くなってなんですが、この作品にゴーサイン出した製作は、"自分のキャリアを生贄に捧げて超汚点ゲテモノ作品を召喚しなきゃ死ぬ呪い"にでもかかってたんですかね?それとも新手の大衆映画批判??斬新過ぎて凡人には理解できません。
(「皆んなが叩いてるから!」という理由を免罪符に、公然と叩くことを喜ぶ風潮は、正直全く好きではありませんし、唾棄すべき潮流だと思っています。なので、これは単純に、真摯な対応をとってもらえなかった、一人の映画ファンの恨み節です。)


私は〈『シン・ゴジラ』の続きが観れると思い込んで劇場に足を運んだ人〉ではありません。単なる特撮怪獣映画好き(ビギナー)です。そのうえ、本作の不評をある程度見聞きした(ネタバレは受けずに)状態で見にきたので、むしろ本作へのハードルはかな〜り低い、良いお客さんの部類だったと考えています。
なので、いくらコチラを虚仮にしてこようとも、作品に対しできる限り好意的解釈をしつつ受け止めたつもりです。
ですが、あのオチだけは……どうしても許容できません。
オチがアレでなければ、⭐︎3でもよかったんです。
「あの一点がどうしても……」という要素があると、他のところまで許容できなくなってしまうのが、人間の業ですね。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いんです。

爆発シーンとか、怪獣の3Dモデルとか、怪獣映画へのオマージュとか、違和感バリバリなところもありましたけど、よく頑張っていたと思います。
しかし、そういった上等な構成要素は全て、上記①〜⑤及びオチ等の展開に台無しにされているんですから、堪りません。
やはり、あのオチ。あれがダメなんです。どうしてもダメ。特撮怪獣ジャンルファンの思いを、歯牙にも掛けず切り捨てるような潔い終わりっぷりが、今は全く許容できません(勿論「むしろこれが良い」という方もいらっしゃると思いますので、特撮怪獣ジャンルファンの総意を代弁しているわけではございません)。
作品終了後(というかオチの直後以降)は、「今まで見てきたのはなんだったんだ?」という虚しさ・やるせなさが胸に去来し、ズーンと心が沈んでしまいました。鬱映画でも見せられたんですかね、私は。

田中友幸、円谷英二、本田猪四郎、金城哲夫、伊福部昭、川北紘一といった、日本の特撮怪獣ジャンルの先人達に対するリスペクト、もう少しギラギラ表に出して欲しい、それさえあればもっと満足できたのに……。


【備忘】
初めて自分以外観客ゼロ人、スクリーン独占を体験。

「別れた彼女に使った金を、セックスの回数で割るようなもんだ」
「陰毛で石鹸を泡立てるとよく泡立つ」
「限りなくウンコに近いゲロ」
「予算約半額、乞うご期待」
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