Shingo

青くて痛くて脆いのShingoのレビュー・感想・評価

青くて痛くて脆い(2020年製作の映画)
3.2
青春時代をどう過ごしてきたか、良い思い出なのか黒歴史なのか。それによって評価の分かれそうな作品。学生時代が人生で最高の時期だったという人は少なくないが、本作は過去をなかったことにしたい人に向けて作られた、タイトル通り「青くて、痛くて、脆い」物語だ。いやもう、このタイトルのセンスが素晴らしい。
私は完全に後者であったので、登場人物の気持ちがわかって仕方がなかった。

本作を要約すると、振られて逆恨みした主人公が、しつこく嫌がらせして絡んでくるという話だ。秋好からすれば「気持ち悪い」としか言えないわけだが、でも確かに、秋好にとって楓は「間に合わせ」でしかなかったし、モアイに彼を引きとめなかったのは、やはりその程度の気持ちしかなかったのだろうと思う。
その存在の軽さが、楓にとっては大きな傷として残り、いつしか恨みに変わっていった。それがただの逆恨みだとしても、楓の気持ちは理解できる。楓にとって秋好は大きな存在だが、逆はそうではなかった。仮に相思相愛でなくとも、同じくらいの存在であって欲しかったのだ。モアイを立ち上げた同士として。

大人になってみれば、どちらもまだ青く、独りよがりで痛いし、あまりにも繊細で脆いことがわかる。
楓にとっては、秋好と二人で過ごす時間さえあれば、それ以上に望むものはなかったが、秋好は理想の実現のため、さらに先を見ていた。二人は一緒にいるようで、最初から決定的にすれ違っていた。
楓は最後に、秋好へ心からの謝罪を伝えに行くが、おそらくその想いが理解されることはないだろう。表面上は「もういいよ」と許すかも知れないが、その一言で、二人の関係は完全に終わると思う。

モアイはmoaiとして再出発し、就活サークルではなく本来の理想を実現するためのサークルに変わる。まあ、当初の活動がそういう方向性であったし、そのまま卒業後はNPO法人でも立ち上げて理想を追求する道もあったはずだ。
だが、秋好の理想は、効率よく人材を確保したい企業の論理に利用されてしまったのだろう。秋好もそのことには薄々気づいていただろうし、楓が個人情報の横流しを暴露したことで、それは確定的になった。
だから、モアイを解散することを決断したのだと思う。

大学院の先輩は、何か下心があるのかと思いきや、普通にいい人だった。「人は誰かを間にあわせにして生きてる。」という彼の言葉は、きっと正しい。誰かにとっての特別でありたいと願っても、多くの場合は片思いに終わる。自分もまた、知らない間に誰かの片思いを道端に捨てているに違いない。
もし、間に合わせで終わりたくないなら、本気でその人と向き合うしかないのだ。たとえ、振られるとわかっていても。
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